気温と水飛沫によって冷えてしまい、ただでさえ弱いOSSANのおなかは、「その時」が迫っておることを伝えてきておりましたな。
このまま限界まで勝負を続けるべきか、否か。
究極の選択を迫られてしまいました。
困りましたな・・・
そう言えば目覚めてから家を出るまでに十数分。OSSANの消化器官たちは未だ半覚半醒であったのでありましょう。
軽く用を足した後、中途半端感が残るまま今までノンストップでやって来てしまったのでありますな。
いよいよスロースターターな我が消化器官は本格的に目覚め、昨日の宿題を成し遂げようとしておるようであります。
このまま釣り続けて、もし奴がヒットしてしまったら?
とてもOSSANの持つネットに収まるサイズではない以上、長時間に渡る死闘の末、ハンドランディングに持ち込むしかなくなるでありましょう。
その後メジャーで体長を測り、カメラに収め、たがいの健闘を賞賛しあい、酒を酌み交わし、体力の回復を手伝い、その後姿を見送りながら勝者としての心の余韻にひたる・・・?
ダメですな。
とても持ちそうにありません。
釣り続けるという選択をしてしまえば、こんなメジャーなフィールドの中で恐ろしいことに
「大人の階段を降りてしまう」
ことになるのは予測に難くない結果である・・・といえる気がします。
決断は早いほうが良いですな。
と言うことで後ろ髪を引かれる思いでポイントを後にし、車まで戻る途中でたまたま出会った刈払機を持ったおじさんに聞いた一番近い厠まですっ飛んでいきましたな・・・
(おじさんありがとう!助かりましたな。まさか釣りブログでこんなエピソードを読まされてしまうとは・・・皆様どうもスミマセン;;)
・・・アブナイところでありました・・・・
スッキリしたお腹と落ち着いた頭で改めて考えましたな。
一度あのポイントから離れてみれば”今日は養沢さんの釣場の全体像を掴みたい”という、もう一つの目的も思い出されてまいりました。
もうすっかり日が昇り、良い天気になりました。ポカポカの陽気は絶好の釣り日和でありますな。
このまますぐに引き返し、陰鬱な雰囲気の漂うあのポイントを更に攻め続けるというのも如何なものかと考えなおしましたな。
当然他のアングラーにも攻められてしまうでありましょうが、何となくあのバケモノを目にすることが出来ただけで多少の満足感も生まれておりましたのでね。
一気に車で最上流まで行って見ることといたしました。
この神社の目の前の流れが管理釣り場としての最上流であるようです。
ここから覗き込む渓は水深もあまりなく、数本にわかれ細々流れる様子であります。ちょっと好みではないですな。
厠に駆け込む際に遠藤前と早渕の駐車場には数台づつの車が入っているのを確認しておりましたのでね、今まで駐車していた場所まで戻り、上流にドンドン釣り上がっていってしまう。という事といたしましたな。
タックルを#3に切り替えて16時位までタップリと堪能することができましたな。
大きくても20㌢後半程がアベレージといえるのでありましょうか。
確か最上流の養沢神社で脱渓するまで15尾ほど釣れましたな。#16のアダムス・パラシュートに反応が良かったであります。
赤保谷というポイントの一つで胸鰭が溶けてしまっている魚が釣れたのは気になってしまいましたな。
そんなこんなで気持ちの良い釣りを堪能したOSSANは最後にもう一勝負。
朝一の、あのポイントに戻ることといたしましたな。
午後に見るそのポイントはまた違った表情を見せてくれました。
上空を覆う木々の梢からキラキラとした陽の光が差し込み、まさにレンブラント光線ですな。
非常に幻想的な風景の中で釣りをできる幸せにひたる事となったのであります。
そう、あの瞬間までは。
なぜかは判りませんが多分、もうあのバケモノの姿を見ることは今日は無いであろうという思いがありましたな。
そのポイントに戻ったOSSANはのびのびとロッドを振り、2尾目の虹鱒をソフトハックルウェットにフッキングさせました。
#3のタックルとは言え、ティペットは6Xを使っており、20㌢程のトラウトでは危なげもありませんな。
ゆっくりと引きを楽しみ、「ずいぶんと元気にジャンプするなあw」等と呑気に構えておったのでありますよ。
と、その時。
OSSANとラインを通して繋がる魚の更に先、盛り上がった水がこちらに突進してくる様子が見えましたな。
またもやあのバケモノがOSSANの獲物を横取りしようと、三たびその姿を表したのでありました。
しかし今度は少し様子が違いましたな。
完全に姿の見える浅瀬に来てもなお、OSSANの姿も見えるはずの距離まで来てしまっているのに、獲物を追いかけることをやめなかったのであります。
よほど空腹だったのでありましょうか。
・・・・そうか。じゃあ
食わせてやるっ・・!!
OSSANはラインを少しだけゆるめ、ヒットさせた魚の逃げるスピードコントロールに徹しました。ここまでの判断、操作は本当に一瞬のことであります。
OSSANはこの時、本能だけに従い行動しておりました。
文字通り必死に逃げ惑う虹鱒はとうとうそのバケモノに捕まりました。
そしてOSSANのロッドにはラインを通し、
ドンッ!!
衝撃が伝わってまいりました。
・・・まだですな・・・
あいつは獲物を横っ腹から捉えたのであります。その様子もすっかり見えておりました。
必ず一度吐き出し、飲み込みやすいように頭からか尻尾からか、咥え直すはずでありますな。
一瞬、深みに持っていく素振りを見せたあいつは予想通り何度か首を振り、獲物を吐き出しました。そして弱った獲物を頭部から咥え直すのが見えましたな。
その頭にはOSSANとの接点が仕込まれておりますよ。
さあ、勝負ですな。
OSSANは深みに消えてゆくあいつを緩めたラインを通して感じております。
獲物が口中に収まり、もう吐き出す意志がなくなるまで余計な違和感を与えないよう、ラインを素早くリールから引き出し、微妙な「遊び」を作ってやります。
頭をなおも激しく振り立てるのを息を殺し感じ取りながら、その大きな口にジワジワと飲み込まれつつあるであろう魚の頭部がアイツの食道手前まで到達するだけの時間は与えたつもりでありましたな。
とうとうラインにテンションを与えました。フッキング動作は必要ありませんからね。
しかし断固とした力であります。
「さあ、こっちへ寄っておいでよ」というような具合でありましたな。
しかし、それで完全にこちらの存在があいつに伝わりました。
あいつと、OSSANを。
鮮やかなオレンジ色のフライラインが一直線に結びます。
それは午後の木漏れ日にすっかり明るく照らされた水面を何の苦もなく切り裂き、疾走します。
ロッドに伝わるその力感、重量感のなんという凄まじさ・・・!!
ロッドは一気に限界まで絞りこまれ、今まで使用してきた中で、聞いたこともないような異音を発しておりました。それを耳で聞き、振動として全身に感じましたな。
それはフェルールからなのか、ガイドとラインの摩擦音であったのか。
・・・!?
ああ・・・・!!
まだあいつとOSSANはしっかりと繋がれておりました。
腕と、衰えてヨタヨタの全身で、あいつの命を感じておりましたな。
どれほど幸福で充実した一瞬でありましょうか・・・!
でもその瞬間、
OSSANはこの勝負の負けを覚悟したんですな。
あいつを今日、この手にすることは叶わないのだと。
覚悟を決めなければならないのでありました。
そうです。
OSSANの手にしているタックルは#5ロッドでも、一号ティペットのそれでもなく、#3タックルのセットなのでありました。
その時の感情をどのように説明し形容すればいいのか。OSSANは未だうまい表現を見つけられておりませんな。
せっかく手に入れた千載一遇のチャンスを、自身のウッカリのために手放さなくてはならないという確信。
もうその手ごたえを感じ、その喜びの片鱗を味わいつつあるのに、全てを味わい尽くして円を閉じることは叶わないんだという確信。
そんな、寂しさに似た絶望感。
まして、
自分自身への怒り・・・!!
・・・しかしここで諦めるつもりはさらさらないのですな。
OSSANは負けを負けと認めない漢であります!
この瞬間のために、日々のあれこれを調整し打ち捨て、眠く疲れ、重く鈍いヨタヨタの体をここまで引きずってきたのであります。
やるだけはやるんだ!
それから己のバカさ加減に呆れればいい。
でもまだアイツとOSSANはつながってるんですな!
今までに2.5Lbテストのラインで河口湖48㌢のバスと渡り合ったのがOSSANのライトタックル記録でありますな。
日本製スピニングリールのドラグ能力と、ライン性能と、たまたまその時、近くにラインを巻かれるようなストラクチャーが無かったおかげで何とかキャッチできただけであります。
思い出せ。あの時の感覚・・・!
しかしディスクドラグとはいえ、ミッドアーバーとはいえ、このフライリールと言うもののなんと愚鈍なことでしょうか。
まだ手の一部として使いこなせていないと言うこともあるのでしょうが、ラインスラックを回収するために素早くハンドルに指を走らせようにも手の中で位置を見失ってしまうこと数回。巻取りスピードはとても魚のスピードに対応できているとは言えませんでしたな。
ラインがゆるむ度、「ああ、行ってしまったか」「今度は外れたか」と気が気ではありません。
しかし何とか「接点」は持ちこたえてくれているようであります。そんなやり取りを続けること、どの位であったでしょうか。
アイツの泳ぐスピードが一気に高まったのを感じました。
「あ・・うぅああ・・!!」小さく叫んでいたはずであります。
このプールに似つかわしくないその巨体を完全に水上に抜く大ジャンプ!
暗褐色のレインボー・・・!
なんという大きさ。なんという太さ、堂々として隙のない精悍さ・・・その大きな顎からは20㌢程の鱒の、1/3ほどがまだ見えております!
激しく首を振り、あいつからすればほんの少しであろう拘束感から逃れようとしています。一度、二度・・・!着水音は魚が立てたものとは思えないほどに低く、鈍い音です。
ダメです。ジャンプをさせてはダメですな・・・!
ハンドル内部まで曲がっていることを感じているロッドの中ほど迄を水中に突っ込んで寝かせ、ジャンプを制します。
嫌な感覚が伝わってきました。
ピリピリ、ギリギリという小さな信号。0.6号のティペットがアイツの鋭い歯で削られつつあるシグナルでありますな・・・
更に自由を制せられ、本気を出し始めたあいつはまた違う作戦に出ましたな。
あろうことかプールの対面、落下する水しぶきによって絶えず乾くことのないであろう、大きな頭を水上に突き出している大岩の裏に回り込むつもりです・・・!!
あの岩の裏がどうなっているのか、その水中はどうなっているのか、わかりません。
ですがラインを巻かれれば文字通り一巻の終わりです。
ロッドを寝かせて横に走るよう何度も誘導しようと試みましたが、あいつの意志は固いようでありました。どうしてもそちらへの向きを変えさせることはできない様であります。
何度か横を向かせた顔も、すぐに岩の方へ向き直ってしまいます。
ダメだ・・・頼むよ!ダメだ・・!
多分このときOSSANは泣きそうになっていたに違いありません。
そして、あいつの意志が変わらないのであれば、負けると分かりきっている賭けに出るしかなかったのであります。
猶予もあと少ししか残されていないでありましょう。鋭い歯で擦られ続けるティペットは程なく限界を迎えることになりましょう。
ズルズルとせっかく巻き取ったラインを引き出し続けるアイツの、まっすぐにその大岩の下に向かおうとする意志と、悔しいほどのあいつの平常心を感じる尾鰭の動きが伝わってきています。
・・・分かった。ならば・・・
ガチンコだ!!
OSSANはアイツのパワーにのされ続け、痛みに疼く右手のロッドを持ち替え、リールのドラグを少しずつ締め上げました。
これ以上あいつとの距離が離れないよう。
大岩の下へ行かせないように。
@ 三回になる予感とか言いつつ、ここまででこのページは4.8K文字を超えてしまいましたな。
長すぎると考え、一度ここで区切ることといたしました。
なんか、ツマラナイTV番組のCM挿入タイミングみたいで申し訳ない感じなんですがね。
でもどうしよう。次で使う写真が無いですな;;
コメント
なんという‼
ハラハラドキドキが止まりません。
子どもの頃に貪るように読んだ、『釣りキチ三平』と同じかそれ以上の興奮レベルです。
続き、大いに気になります。
どうか釣れますように!
すぺっくるど様、こんばんわ!
いやいや、そんな歴史的名作を持ちださないでくださいませ^^;
楽しんでいただけると報われる気持ちでいっぱいであります!
次で本当にこの釣行記はラストであります。
今しばらく・・・