始まったばかりに思える激闘。
その終わりは、当然のように訪れましたな。
・・・止まった・・・
正確に言えば、限界まで張りつめられているラインの出は数センチずつ以内に収まりましたな。
ですがもうこれ以上、ドラグを締めれば今度はティペットどころか、リーダーとラインの接続のブレイデッドループが切れるか、各結び目も破綻してしまいそうであります。
ロッドも持つかどうか・・・
持ち替えた左手だけでは支える力が足りず、すでにしびれて震える右手で竿尻を保持してやらねばならない状態です。
更に持ち手を切り替え、だましだましポンピングを行いますが、巻いた分しっかりラインを引き出してくれます・・・!
想像もできなかった腕の痛みにより、もうロッドのグリップを握り続けることはできず、バット部分を支えてグリップは下腕にあてがい固定している状態でありましたな。
それにしても・・・!
ユッタリとして、何やら自信に満ちたアイツの泳ぎ方・・・余裕綽々と言ったところでありましょうか?
だんだん腹が立ってきましたな・・・
騙し騙し引き寄せる力を増していき、今ではアイツとの距離は4m~5mほどに。
水中に確認できるアイツの背中は一定のリズムで靡き続けており、ジャンプを再び試みるつもりもないように見えましたな。
もしかしたら、捕れるかも
そんな思いが少しだけ過った時でありました。
奴はこちらを肩越しに振り返り、一瞬、OSSANの存在を確認したように見えたのです。
次の瞬間、
あいつは「今までのファイトは何であったのか」と言うほどのスピードとパワーで、猛然と大岩めがけてダッシュをかましたのであります!
疲れてきたフリをしていたのでありますな。
いかん!!
そう思ったのが早かったか、完全にロッドがノされるのが早かったか・・・
まるで締め上げていたはずのドラグが効いていないかのようにラインが引き出されます!
逆転するスプールを抑えたか、どうであったか。
記憶がありません。
・・・何もできませんでした。
二つ、三つほどの大渦を残し、あいつは消えてしまいました。
行ってしまいました。
OSSANとのつながりを振りほどいて、自由を勝ち取りました。
大岩までは届いていなかったはずであります。そこへ行くまえにティペットが切れたのでありました。
今の今まで、ギリギリと互いの力と思いをぶつけ合う橋渡しをしていたフライラインは、完全に生命感を失ってプールの水面に漂い浮かび、その流れに影響されるだけのモノとしてそこにありました。
鮮やかで頼もしかったそのオレンジ色は、景色の中でずいぶんとワザとらしい印象に変わりました。
OSSANもしばらくは両膝をつき、その痛みも感じず、袖が肘上まで濡れることも厭わず両腕を水底につき、ただただ茫然と荒い息をつくのみでありました。
見開いた眼前に水面が迫り、全身ビショ濡れで、流れの中で四つん這いになり微動だにできなくなっているその様は、他人が見ればなんと滑稽で、無様で格好の悪かったことでしょうか。
美しいフィールドの中で、どれほど醜悪で情けない生き物であったでしょうか・・・!
負けました。
完全なる、敗北であります。
OSSANはその後ずいぶんと長い事、この淵の脇の岩に腰掛け、煙草をふかし水面を眺めておりました。
しかし、再びフライは投げませんでしたな。
この日の釣行は実質、これでおしまいでありました。
帰りの高速上。晩酌のひととき。ベッドでのまどろみ。通勤の朝。
デスクでのPC画面と思惟の間隙。
あとあと落ち着いてこの闘いを振り返ることができるようになってからは、
コレで良かったんだなぁ
と、わりと本気で思っておりますな。
負け惜しみであるかも知れません。いや、きっとそうでありますな。
でも、あの勝負を、もしOSSANが制していたら?
そしてリリースも上手くこなせていたら?
多分、今の晴れ晴れとして、再戦に臨む気持ちは無かったでありましょう。
だってあの時の釣りは生餌釣り。所謂ムーチングという方法であったのですからね。
OSSANはあの日、
フライで釣るべく準備をし、毛鉤専用釣り場に出かけ、あいつに挑んだ
のでありますからな!!
そうだ。
そう言えばあいつと酌み交わすはずのブッカーズだって、その日は持って行かなかったんですからな。
また作戦を練り直さなければですよ。
・・・ワクワクしますなぁw!!
アイツの大きさは、ホントはどのくらいだったと思いますか?
60センチ? 70センチ以上であったでありましょうか?
いやいや、違いますよ!
もうだいぶ成長してしまいましてね。
OSSANの記憶の中では2メートルのバケモノになってしまいましたwww
一体、どのくらいの時間の戦いであったのでありましょうか。
ずいぶん長い事やり取りをしていたようにも思えますし、実際はほんのわずかな時間であったとも感じておりますな・・・
しかしこれだけは自信をもって言えます。
二度目の養沢釣行記である、この四部を通してお読みいただいた時間よりは確実に短い時間であったと。
こんなOSSANのヨタヨタ長話を最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!
おしまい。