やはり格別でありました!湯川フライフィッシングの記(二日目)

ちょっとばかり形容のしがたい踵の激痛と雨に見舞われてしまった二日目。

計画変更でキャンプを先にたたみ、歩くたびの痛みを騙しなだめて湯滝レストハウスより川へ入りましたな。

駐車場でOSSANを見かけたご夫婦からは、その異様な歩き方に不思議そうな視線を送られてしまいました・・・;;

昨夏に観瀑台より覗き込んだ湯川の滝壺には泡の塊が盛大に発生しており、併せて硫黄の匂いも鼻につき、あまり良いイメージは持てませんでしたな。

しかし今来てみるとその両方共が存在せず、河原のスペースは校外学習の子供たちの恰好の”水触り場”として賑わっておりました。

さすがにその中をかき分けて滝壺を打つ心臓は持ち合わせておりませんな。

パスであります。

昨日も挨拶を交わした青年がすぐ先で釣っているのが見えました。沢登り風ザックを背負って赤銅色に日焼けした肌が印象的な彼もどこかで泊まりだったんでしょうかな?

その目つきや体つきを遠く眺めるだけで分かってしまう、はち切れんばかりであろうエネルギーを羨ましく思いつつ木道を大きく迂回。

手頃な踏み跡から川へ降りて少々驚きましたな。

昨日の湯川と様子はまるで違うのであります。

小田代橋の少し上流は手を出しましたが、そのあたりの印象にも増してこちらは森林の中を流れる川であります。

どこもかしこも釣れそうでありますが、そうは問屋が卸さないのであります。

木道も近くに走り、ハイカーの往来が絶えないので安心していられますが そうでなければもう絶対に

クマが出そうな景色ですな・・・。

立ち込んでみればやはり柔らかめとはいえ、湿原内の釣りよりずっと安心できる底質であります。

少なくとも膝までズブズブ・・・と言う目にあう可能性は低いと思いますな。

其処此処に通じる踏み跡と相まって、”あそこやりたいな”と言うポイントにはほぼアクセス出来てしまうのであります。

今回の湯川釣行で、これは重要なことなんだと改めて思いましたな。下流のように手出しできないポイントが多いとストレスが溜まってしまいます。

ポイントに近づきすぎないことの方に神経を使い、立木や倒木の位置関係、流れの様子と水深の微妙な変化などを遠まきに把握しながら己のキャスティング限界距離までアプローチを繰り返します。

このプロセスも頭の体操、楽しいものでありますな。身体のコンディションさえ良ければ・・・

多少のバックキャスト等の、ラインにパワーを与える予備動作が必要なフライフィッシングは、このように入り組んだフィールドでは少々不利でありますな。

しかしポイントにフライを送り込むことさえできれば、魚からの何かしらのシグナルを受けられる可能性はルアーより高いと感じております。

ティペットは5X。細くとも6X。13ftのシステムはそれでもいくらか回収不能なフライを出してしまいましたな。

今思えば9〜10ftでも良かったかもしれません。

さあ、どう攻める!?

踵の痛みをかばいつつの藪漕ぎ、ウェーディングは腰に想像以上の負担となりました。

サポートタイツのみを装着し、ベルトを車に置いてきてしまった事を悔いますが後の祭りでありますな。

でもアレ、締め付けると腰骨に当たった部分が後で痛いんだよなぁ・・・何か良い方法はないもんでありましょうか。

それにしても釣れません。

 

もうスタートから二時間が過ぎようとしているのに、な~んの反応もないのであります。

相当いじめられた後であったのか・・・おのれ赤銅色め・・・再び落ちてきた大粒の雨がレインウェアを叩きます。

朝一から出撃できなかったのがそもそもの敗因であったのでありましょうか?そうとしても、どのみち動けなかったしなぁ・・・

フライのロスト、ティペットの再セッティングを繰り返すのみで、いつまで経っても水面は炸裂してくれません。

出発前に急いでタイイングした”インコ・ニンフ”も試してみますが、全く釣れる気がしませんでしたな。

またです。

いい加減慣れっことなった、苦しくて出口の見えない負のスパイラルの始まりなのであります。

打ち捨ててきたはずの馴染みの焦燥や当て所なく正体不明の怒りさえもが腰痛と共にこみ上げてきます。

こんなに美しく襞深く、露に潤されてどこもかしこも輝いているフィールドで、まるで勤め先にいる時のようなヒドイ精神状態に引き戻されてしまいます。

今日は早めに切り上げてしまおうか・・・

 

珍しくそんなことを考え始めた時、遠く賑やかな声が聞こえてきましたな。

おそらく全くハイキングとは関係のない内容の、楽し気なその会話はこちらへ近づいてくるようであります。

しばらく人の気配が途絶えていたので、木道にほど近いポイントであることを忘れかけておりましたな。

その時の私はきっとこの場に似つかわしくない、泥沼に住むヘドロ半魚人のような(どんなだ)表情をしていたはずなのであります。

出来ればそのまま、単に背中を向けたアングラーのいる風景としてスルーしてほしかったところなのであります。

「あ、釣りしてる~!」

「なにかいますか~?」

しまった。見つかったし!しかも声かけられっちゃったよ・・・

「釣れますか~?」

「・・・ハ~イ!」

嘘です。

OSSANは我が人生において、8万6千513回目くらいの嘘をつきました。

このあたり少々細かいようですが気にしてはいけません。

「なにがいるんですか~?」

「・・ぶ・・ぶるっく・・・」

ついそう答えましたが案の定、怪訝そうな顔をされてしまいましたな。

「・・・いわなの仲間〜!」

すぐに言いなおしました。

「ハ~イ。ありがとうございま〜す!」

「 ・・・・・・・ 」

 

赤のジャージ姿。中学生と見える女の子たちはそう言って、再び談笑しつつ歩いていきました。

見るもの聞くもの感じるもの、今はすべての出来事に全身、真正面からぶつかって生きているのでしょう。

その全身は弾力に満ちて、浪費とも感じるキラッキラの瞳はOSSANのように曇っていませんし、澱んでもいません。

「ありがとうございまーす!」

 

気持ちが晴ていくのを感じましたな。

美しい地衣類が露に光るフカフカの倒木の上に腰をおろし、一昨日購入した水分の抜けてゴワゴワになってしまったコンビニおにぎりを頬張ることにしました。

 

ふと視線の端に動くものを感じ、見直してみると2㌢ほどの褐色の大きなカワゲラの仲間・・・

思い出しましたな。

昨日休憩した場所で挨拶を交わしたおっちゃんが「上流は全く様子が違うよ~。カディスなんだよね。いつだったかヒゲナガのスーパーハッチも見たことがあるんだ・・・」と言っていたんですな。

ヒゲナガ・・・ですか。

分かりませんww

でもカディスなら大丈夫、沢山持ってきてますからね。

色目の近いディアヘア・カディス#14を結びなおし、再びロッドを振り始めましたな。

昨日も釣ったはずなのに、手が震えます。

そうしましたら、なんということでしょう。

狙っていた沈倒木を過ぎてもまだ平気、まだいけると流し続けたディアヘアカディスは瀬尻もピックアップ限界地点付近で水中に引き込まれました。

欝々としていた気持ちが晴れた後、あっけなく釣れてしまったのですな。

オニギリタイム前に、何度もパラシュートフライを流した場所なんですけどね・・・

久しぶりに感じる、小気味良くも力強い手ごたえを堪能しながら小声で、

「おじさん(私もOSSANですがね・・・)アリガトウございまーす!!

繰り返しましたな!

その後、単純なワタクシはほとんどの残り時間をエルクヘア・カディスとディアヘア・カディスで押し通すこととなりました。

今思えば、今回の釣行でこの子が最大でしたな。約23㌢。

そしてB級品も交じるそのフライたちに、湯川のブルックトラウトたちは心優しくも次々反応してくれたのであります。

そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫じゃよ・・・

でも残念なことに。

ようやく当たりフライを見つけ出しても、魚の附き場が読めてきても、やはり太陽も時間も止まってくれはしないのでありますな。

小滝と呼ばれる、上流域の核心部ともいえる滝の上流部に差し掛かったところで引き返さなければならない時間となってしまいました。

傾いてきた日に照らされる水中では、我がカディスを銜えたブルック達の横腹が橙や黄金色にまだまだ閃き続けるのであります。

どうしよう・・・楽しい。

帰りたくない。

もっとこの川で釣りを続けたい。

明日も隅から隅まで歩き回り、この素晴らしい景色の中で埋もれてしまっていたい!

再び湯元キャンプ場に戻ってテントを張ってしまいたい!サーモンだって残ってる!!

痛む足腰に呻きつつやっとのことでウェーダーを脱ぎ、いろは坂を完全に降り切ってしまうまで、OSSANは明日会社に行かないで済む言い訳を結構真剣に考え続けてしまったのでありました。

しかしどう突っ込まれても良いような、上手い台詞は残念ながら浮かんではこなかったのでありますな。

頂いた記念バッジと減ったカディス。

このように我が記念すべき初ネイティブ・フィールドデビューは終わってしまいました。

記憶を掘り起こしてみると二日間の釣果は14尾(プラス2尾・・・)。初のネイティブフィールドデビューとしては”上出来であった”ということにしておきましょうか。

この釣行が終わり、もう1週間以上が経ちましたな。

まだ川音、葉を揺らす風音、ブルックの閃きと色彩、手ごたえ、子供たちの声、舞い上がった火の粉、泥の匂い、鹿の声、テントを叩く雨の音・・・すべてが薄れず残っております。

ついでに腰痛も・・・

来年も是非訪れたいものであります。

そうしたらほんの少しだけ、お手柔らかに迎えてくれるでありましょうか?

やはりあの地は、日本の宝石のような場所のうちの一つなんでありますな。

湯川は7月、これからが一番いい季節だということであります。