自転車趣味の世界では、「生える」という表現がありますな。
例えば予備のホイールを1セット持っていたとして、一々それを交換することが面倒になったり、更に有効に使おうと新たに自転車を一台組んでしまうような恐ろしい様を指して、「ホイールから自転車が生えた」等と表現します。
近頃のワタクシは抑制が効いておりますので、そのような迂闊なことは致しません。
しかしまあ、釣りの道具というものは、自転車のパーツ等と比較してスペースを取られにくいと言う事は言えますな。
ずっと気になっていたシルクラインを手にする事で、いとも簡単にタガが外れてしまいました・・・
以前からスタンダード・アーバーのモデルが欲しかったのですが、ラインに巻グセが付くのが嫌で避けていたのであります。
しなやかな編み糸であるシルクラインは、比較的ソレがつきにくいというハナシなのですな。
であればと、いよいよ憧れのHARDYのリールを手にする決心をしたのであります。
行きつけのショップには、運よく丁度良いサイズのものが並んでおりました。Marquis LWTとFeather weightというモデルですな。
双方比較したうえで持ち帰ったのは、フェザーウェイトのほうでありました。
現行マーキスの方が設計も新しく、何よりMade in Englandであります。
しかしクリッカー調整ダイヤルの押し出しの強さと、アウトスプールリムの光沢感が、HARDYに対して自分が持つイメージと少々ずれていたのであります。
リールフットに貼られた産地シールの存在に最後まで悩みましたが、まあ剥がしてしまえばそのうち忘れるでしょう・・・
最終的には己の手に伝わってくるクリックの感触の良い方をとりました。
ライトウェイトシリーズは、1960年あたりから少しずつ仕様の変更をされつつ生産されてきたモデルという事であります。
そのシンプルな構造故にトラブルも少なく、世界中のフライ・アングラーに愛されてきた名品とされておりますな。
しかし近年生産中止となり、流通在庫も少なくなったようであります。(HARDYなので、いつか復刻するだろうな~とも思っております。)
構造を理解しておこうと、スプールを外してみて妙に納得してしまいました。
初めて見る人間にしてみれば、
オイ、こんなに部品数少なくて大丈夫なのかよwww
という印象はフライリール全般に共通のものと思います。
しかしよくよく観察し、その意図するところに想い馳せてみれば、「ふ~む、なるほどなぁ~・・」と妙に納得できるミニマリズムなのであります。
こんなところにも、不思議な魅力を感じるようになってまいりました。
日本の渓流魚を相手にするのに、このHARDYフェザーウェイトはまさにぴったりのサイズでありましょう。
それには強力・精緻なドラグ性能も、複雑・高倍率ギアも必要ない(そういうバリエーションもありますが)のでありますな。
しっかりとバックラッシュを防いでくれ、大事なフライ・ラインを格納してくれ、ふとフィールドで眺めたときに静かに寄り添ってくれていればそれで良いのであります。
このリールが我が手元に来るまでに、恐らく店頭で幾度もハンドルを回されてきたのでありましょう。
モデルとしても新しいマーキスより、クリック音と感触が柔らかく感じられたことがそれを物語っているのだと思いました。
そうとしても、これまで使用してきたフライリール達に比べると、正・反転時ともなかなかに賑やかな音ではあります。
この音が渓に響き渡り、高揚と忘我をもたらしてくれるのはいつになるでしょう。
一つ一つ刻まれていく傷の中に、魚たちの輝きや、包まれていた風の記憶を弄る夜が来るのは何年後でしょうか。
ゆっくり、ゆっくり付き合っていこうと思っておるのであります。