再び南会津へ。今度は只見方面へ突撃してきましたな。

「鉄は熱いうちに叩け」と言う言葉がございます。

どうも消化不良に終わってしまった檜枝岐釣行のモヤモヤを、同じ南会津の川に雪いでもらうことにしたのであります。

会津には魅力的な渓が沢山あるのですな。

心滅する夜勤中、お決まりのG・MAPをグリグリし続けていたOSSANは、気になる川を発見しましたな。

なんとこちらも伊南川水系です。南会津においての伊南川は、とてつもない存在感なのであります。

で。

その伊南川水系の、そのまた支流の川であります。

地図上ではその川には名前も林道も示されておりません。川通しに引き返してくるしかないようであります。

どうも文章がモヤモヤして気持ち悪いですが、これも仕方ない事なのでありますな。

千載一遇の晴れ間で、そりゃないヨ・・・。

早朝の東北道をブッ飛ばし、約4時間あまりで到着しましたな。

しかし昨年の台風の影響なのでしょう。ここでも林道補修の工事が行われており、相当手前で通行止めに遭ってしまったのでありました。

目指す川を諦めて他へ転戦か・・・とも考えましたが、そのような臨機応変を生み出す経験が足りないのですから、どうにもなりません。

ピンポイントで目指してきた場所なので他に情報も持っておりません。

しかし目の前の川もなかなかどうして、非常に魅力的な水色なのであります。

脇のスペースへ車を置き、更に林道を歩き降って入渓点を探し、釣り上がってみる事にしましたな。

うん。良いなあ・・・。きっと良いサイズの魚がいるはずですな。

入渓するのに丁度良さげな堰堤を発見し、その上でウロウロ足掛かりを探していると、通りかかった車から声をかけられました。

「どうですか〜?」

「あ・・これから始めるところです。」

普段のOSSANならここで会話は終わるのが常です。しかし会津の風の吹き回しだったのでしょうな、

「ホントはあそこへ入るつもりでしたが、どうも無理そうだったので・・・」

と正直に続けたのです。

同様に遠方からいらしたと言うYさんは瞬間、少し驚いた表情を浮かべました。

Yさんもその川へ行く予定であり、ほんの二週間ほど前にも入ったのだとか。

「行けますよ。でもちょっと厳しい所もありますから、良ければ今日は御一緒しましょう。案内しますよ。」

こんな超がつく山奥で、飄々且つスラリとした風貌。そんな御仁がガイドしてくれるというのです。しかも妙にフレンドリー。

アヤシイ・・。

同じくフライをやりに来たというが、燦々と日の照るこんな時間というのに、まさかの狐狸の類か・・・。

うっかり誘いのままに車へ乗ってしまうと、ふと気がついた時には見知らぬ土地で茫然自失の神隠し・・・とか?

「前に行った時は泣き尺のオンパレードでしてね。まあ、良ければですが。」

「ア、行きます行きます。よろしくお願いします!!」

メンドクサイのと分かりやすい部分と、両極端なAB型のOSSANです。

車を後にし、崩落現場を横目にどんどん進みます。その先では猛々しく繁茂した藪が、消えつつある林道を飲み込んでおりました。

南会津の山奥は今、短いであろう夏の本番を迎えつつあるようでした。

一度は諦めたその川へ、近辺の様々な情報を頂きながらたどり着きました。

そこが前もって想像していた風景と、あまりに似ていたので不思議な気分になりましたな。

それにしても、この支流をこのまま遡ったとしても、きっと良い釣りができると思いました。

それほど辺りの雰囲気が良いのです。

バックパックに剥き出しで突っ込んできたロッドを継いでいるその時、サブタックルを忘れてきたのに気がつきました。

もうどうしようもありません。より慎重にいくしかありませんな。

フィールドでその日初めてラインを結ぶときは、喋っていてはなりません。

目と指先はノットに集中しつつも、匂いや音や生毛の先端に感じることに至るまで、その日の状況を全身で探ります。

この日はもっと虫たちが居ても良いナと思う以外、良い兆候でいっぱいなのでありました。

水の色や量。日照具合。風の吹き方。森の密度や推理していた通りの渓相・・・。

ふと、風の中にかすかな魚の匂いを感じた気がしましたな。

嫌が応にも期待が高まるというものです。

なかなかにアグレッシブ・スタイルです。

「じゃあ、ここはやらせてもらいます。あとは順番に行きましょう。」

Yさんはタックルセットも素早い御仁のようです。

やはり油断なりませんw

「ん〜・・ダメですね。足跡ありました? もしかしたら昨日あたりに誰か入ったのかな?」

見ると一風変わった八角形のロッドにバーミンガムスタイルのリール。15ftくらい?のシステムを、まるでバシバシと打ち込むかのようなキャスティング。

そのスラリとした風貌に似合わない、非常に攻撃的なスタイルに感じます。

「どうでしょうか。見かけませんでしたね。」

「ここも良さそうですよ。どうぞ。」

それほど大きくない岩盤に沿って狭められ、数メートル上流で発生した白泡を薄く巻き込みつつ、上下動を持った複雑な水流となっています。

幅は狭めですが深さもありそうで、昨日・今日誰も触っていなければ魚はいるはずのポイントに見えます。

周囲の梢が高い様子なので、少々長めのティペットを継いであります。うまくラインを捌けばドリフト時間を稼いでくれるはずですな。

上流のポイントも温存すべく、ランの下流、岸際から順にグレイ基調の#14パラシュートフライを流していきます。

数投目。

ロッドの感触を探っているなかのキャストで出てしまいました。

「おおっ!?」

「うは!キタww」

虫たちは少ないのに、良い肉付きだと思います。

檜枝岐に続き、南会津の岩魚たちは何と心優しく素直でウブなのでありましょうか!

この川での初物となりますので慎重に寄せ、お借りしたメジャーを当ててみると23㌢。

(ワタクシにしては)悪くないスタートとなりましたな。

「いきなり出ましたね〜」

「いやはや、ここまで来た甲斐がありました。これで心置きなく帰れます!」

「ははは^^;まだ始めたばっかりですよ。」

立派な木を見ると、思わず手を合わせたくなります。

地図上で想像していたよりも頭上が開け、フライフィッシングに向いた渓相だと感じました。

Yさんによると廃林道(杣道か)もあるとのことですが、下から見上げてもその存在は怪しく、もう人類は通れない状態となっていると思われましたな。

ということは、どんどん遡って行った末に天候急変等で急な増水に見舞われたりすると逃げ場がない・・・ということであります。

ここ最近の雨続きで山々はたっぷり保水し、地盤も緩んでいるはずです。

いつの荒天の影響かわかりませんが、所々に山肌の崩落した箇所もあり、そんな場所へは近づかない方が良さそうです。

「いや~おかしいな。出方もシビアですね。先行者いるかな?」

Yさんはしきりにそう言いますが、遡れば遡るほど、ここぞというポイントからは岩魚がしっかり出てくれます。どれだけ良い思いをしたのでしょう。

普段キビシイ思いばかりしているOSSANから言わせてもらうと、ロッドも振りやすく、まるで楽園のようであります。

そして明らかに檜枝岐の岩魚たちよりアベレージも、野性味も勝っています。

「ああ、こんな場所がせめて片道2時間ほどにあればなぁ・・・」

久しぶりの晴れ間に恵まれるなか、次々と岩魚を釣っては放し、釣っては放し。

幸せなのであります。

良い気分でロッドを振ると素直にラインが伸びます。

そうして水面に浮かべられたフライは毒気を発せず、魚たちを引き出すチカラが数割も増すように感じます。

「ん〜・・良いなぁ〜」

「おっ バッチリじゃないですか?」

「よし来た!」

「あ~!デカかった・・」

「ああいう反転流もいいんですよね~」

こんな時間の流れの中で、自身の内に不安や不満が見つけられるとすれば、「この幸せはそれほど長くは続かない。」という事だけであります。

それらに出来るだけ捕らわれないよう、意識しないように気をつけながら、次々と現れるポイントを打っていきます。

今は忙しいのですな。

場所ごとに異なる流れの様子であり、その場所ごとに立ち位置やフライの落とし方を考えねばなりません。

そのような事だけに集中して、ちゃんと魚達からの反応を得られるこの川でのフライフィッシングの瞬間は、とても幸せなのでありました。

君のような顔つきの岩魚が釣りたくて、ここまで来たのです。ありがとう!

二人とも昼食を摂ることすらすっかり忘れて夢中で遡っておりましたが、とうとう引き返さなくてはならない時間になっていました。

あれほど降り注いでいた陽光はいつの間にか高い雲に遮られ、遠く飛行機のジェット音が木霊しています。

川通しに降るしかないので、これ以上の深入りは無理そうなのでありました。

チト小さいですが良い身体付きです。大きく育ってくれヨ!

様々なことを話しつつ、今日辿ってきた道を引き返します。

道連れがある事で、フィールドを後にするときのなんとも言えない寂寥感に飲み込まれず済みましたな。

たまにはこんな釣りも良いのかな・・・と思ったのでありました。

辛うじて携帯電波の届く場所まで引き返し、本日のお礼とお互いの連絡先を交換したのち、まだ見ぬ上流への同行を固く約します。

宿をとっているというYさんの車を見送りつつ、どうやら物の怪ではなかったとホッとしたのでありました。

さて、孤独なワタクシは今回も野営です。

明日はこことほど近い、別の支流へ入る計画を立てているのです。前回の反省も踏まえてタープ設営&車中泊とすることにしていたのですな。

テント及びシュラフ等の展開、片付けの時間及び労力を節減する目論見であります。

こんなカンジ。十分でありますな。野営地に自分の痕跡を残してはイケマセン。

ずっと車に放り込みっぱなしであったムササビウイング・タープを、カーサイドタープとして使いました。

キャンプ場ではないので、さびしいですが焚火はナシです。

明るいうちにあちらこちらへ焚火の跡を発見し、非常に残念な気分になってしまいました。

閉店間際に行くもんじゃありませんな。

今回の、

「可能な限り疲れたくないので近所のスーパーで出来合いの総菜買って並べるだけでワシもうぜ~ったい料理なんかせずにひたすらビールばっかり飲んじゃうからね作戦」

は失敗いたしました。

昼食が遅かったことも敗因の一つでしょうが、

  • 冷えたまま食べるピザのチーズ成分は重すぎた
  • 冷えたまま食べる春巻きの油も重くてマズかった
  • 閉店前売れ残りの筑前煮はマズかった

・・・結局半分ほどしか手を付けずにクーラーボックスへ戻してしまい、ビールのみをグイグイ煽ることとなってしまいましたな。

ビールは余裕を見て買って行って良かったなぁ・・・惣菜もちゃんと選ばないとダメですネ。

このくらいなら苦手な人も平気かな?

周囲数キロには人家もありませんので、気兼ねないボリュームで洋楽を鳴らします。

寂しい野営地での焚き火のない夜は、酒と音楽、灯りに誘われてやってくる様々な昆虫たちがエンターテインメントでありますな。

タープの先端に吊るした、100円ショップで購入したミニランプに飛来する様々な虫たちを観察するうちに雨が降り出しました。

最後のビールの封を開け、身に付けているもの全てを着替えてさっぱりします。

まあ、言ってみれば全裸です

人里離れ、車も往来する理由もない時間と場所だからです。こんなところを誰かに見られたら、しばらくは立ち直れませんな。

眠っている間に動物がきても食べる物がないよう、椅子やテーブル以外をしまいます。

車のルーフを鳴らす雨の音を聞きながら、

「頼むから、あまり強く降らないでくれよ・・」

と願いつつ、あっという間に眠りに落ちました。

またもや・・・。まあ、行いが悪いからなぁww

もしかしたら、会津はツンデレなのかもしれないと思いました。

6時前に拍手を受けているような感覚で目を覚ますと、

見事な土砂降りですww

良い思いで期待させられ、翌日ソッポを向かれるのは2回目となりましたな;;

梅雨らしくシトシト・・くらいを期待していましたが、こればかりは仕方ありません。

脇を流れる川を覗き込むと、夜中じゅう降り続いていたせいか濁りも入っています。

まずはコーヒーも飲まず、急いで此処から引き返さなければならないのでしたな。

このくらいならまだ良い方でありました。

集落からここまで、数カ所の越水箇所を確認していたのであります。

この降り方だと水量の増加や落石の誘発・・・。下手をすると山肌の崩壊などで林道そのものが寸断され、取り残されてしまう可能性がありました。

ソロで行動するということは、臆病なくらいリスクに対するアンテナを敏感に働かせておかなくてはなりません。

急いで荷物を片付け、数カ所の沢の入り口を確認しつつ集落まで戻りましたな。

雨に降られることも前回同様、織り込み済みでありました。

その雨が強く、釣りができない時のために考えていたプランBを発動します。

観光であります。

ただの観光ではありません。一部で流行の

聖地巡礼

なのであります。

感無量であります。遠かった^^;

只見〜新潟の魚沼〜シルバーラインを通って奥只見湖(銀山湖)へ参りました。

グル〜っと会津朝日岳を回ることになりますが、このルートしかないのですな。スノーシェッドの連続する険しい山道を含めて3時間の道程であります。

此処には敬愛する作家・開高健氏の石碑があるのでした。

そして氏の著書の中でも、ワタクシが一番好きなのは『夏の闇』という作品です。

いまだ秘境と言えるこの奥只見湖の山荘に逗留しながら、当時その構想を練ったそうなのであります。

ペンと原稿用紙、そして釣竿を携えて。

文豪はこの地にも様々な影響を残しました。その活動や著書を含め、アングラーの皆様にはぜひ一度触れて見て頂きたいと思うのですな。

いまさら・・と思われるかもしれませんがw

インレットには数名の餌釣り師がおりました。新潟へ越境してからは雨は小降り。もしくはほとんど止んでおり、その気になれば釣りもできたのであります。

ですが、その気はもうすっかりなくなっておりましたな。

わざわざ3時間もかけて此処までやってきて、私がしたことといえば石碑の前でカップ麺をすすり、コーヒーを飲んできたくらいです。

しかし非常に満足しましたな。

この地へは、改めて時間を作ってきてみたいと思います。周囲に素晴らしい渓も多々ありますが、せっかくなら湖をやってみたいと感じました。

でも、その時はまだ少し先のはずです。

限られた時間とエネルギーをどう割り振るか・・・OSSANは今、渓に夢中なのでありますな。

帰りの運転中もずっと夢想しておりました。

伊南川支流郡もあの川も、まだ見ぬ奥地を隠しており、そこにはきっと度肝を抜くような経験が待っているはずです。

昨日はほんの少し片鱗を見せてくれたようですが、是非もっとしっかり見せていただきたい。

もっと遠く、もっと深くを見に行きたい。

もっと目を瞠り、もっと驚きたいのです。

そのための課題を洗い出している、今日も梅雨空の休日であります。