一日中降り続いていた強い雨は、ハードであった夜勤から解放される頃にはすっかり上がっておりました。
一年のうち大事な遠征釣行に限って言えば、まさに連戦連勝中の「The晴れ男・Ossan」でありますw
今日明日には梅雨入り宣言が出るか・・というタイミングで東京を抜け出し、今年も東北・岩手県への遠征釣行に行く事ができましたな。
眠気と疲労でフラフラになりつつ購入してきたお楽しみのビールと肴を、隣席のマダムの迷惑にならぬよう、静かに素早く摂取します。
発車したばかりの列車内はとても静かで「ぐはぁ〜!ウメぇぇえ〜〜!ザマミロ!!」などと、この感動を声に出せないのは辛かったですな。
それはそうと、近頃は駅ビル内の店舗が充実しているせいか、列車内で飲食をする事は少なくなったのでしょうか?
またもやほぼ満席であるにも関わらず、控えめなアナウンスが響くばかりの車内では、缶ビールのプルタブを「プシュッ」とやるにもまぁまぁ気を使うのでありました。
新幹線ですから当然なのでしょうが停車している時間も数分間と短く、車窓越しに急いで駅弁売りとやり取りする・・・などの旅情は望むべくもなくなりましたな。
大宮から盛岡までは500キロ強。それを2時間弱でブッ飛んでしまうのであります。
満足な連休を取ることの叶わぬワタクシの時間効率的には素晴らしいことでもありますが、それと引き換えに失うものがあるのも残念ではありますな。
今回は盛岡の繁華街や各観光スポットに近い、北ホテル(HOTEL du Nord)を2泊の宿としましたな。
シングル部屋はとても狭く、バスルームでも身体をあちこち捻らねばならないほどですが、ほとんど眠るためだけに帰ってくるようなアクティブ派にはオススメであります。
改装して間もないとのことで清潔感もあり、Wi-Fiも高速。ベッドの寝心地も快適でありました。
併設レストランで働くおばちゃんは細やかに気配りをしてくれ、何より素泊まりからある各プランは、立地を考えるとかなり気安いものでありましたな。
今回もお世話いただくSさんと、再会を祝いつつ近況の情報交換。次から次へとヨダレの出そうなお話しが飛び出します。
しかしOssanも、百戦錬磨とはいかないまでも、各地で痛い目に遭って経験を積んできましたからな・・・
〜週間前は良かった、あそこでは尺上がボコボコだった!・・などというハナシを鵜呑みにして、ホクホクしてしまう初心なワタクシではないのであります。
ウン10年も研鑽を積んできた腕を持ってして、ようやく釣れるような相手なのかもしれないじゃないですか?
作戦・準備も万端整え臨んでみても、未だ返り討ちに会うことは常なのであります。
そして昨日までは良かったという魚たちのご機嫌が、今日も良いとは限らないのが渓流フィールド(に限らずでしょうが・・)の辛くも面白いところでもあります。
先ずは現場に立ってみないことには始まらないのがこの釣りであると、よくよく覚悟を決めておいた方が賢明でありますな。
かつて文豪も「釣り師の話には過去と未来があって、現在がない」と書きつけられました。名言であり妙諦であると、確と心に刻んでおかねばなりません。
そんなふうに自制はしてみるものの、ここまで来たからにはやはり大物を釣りたい・・・
羨ましい話を次々吹き込まれ、煩悩を刺激され葛藤に翻弄されつつ、次々と杯を空けてしまうだらしないワタクシなのでありました。
案の定酔っ払って道に迷いながらホテルへ帰り着くと、その後は何をしたのか覚えていないうちに翌朝となっておりましたな・・・
ホテルでしっかりと三杯飯の朝食を食べた後は、いよいよ初日であります。
相変わらず何処をどう走っているのやら・・・なのでありますが、どうやら閉伊川水系の一支流へ入りましたな。
エンジンの音が消えるとすぐ、それまで侵入者の様子を伺っていたであろう鳥たちの鳴き交わす声に包まれます。
やはり懐かしい匂いが含まれているナと感じられる、たっぷりと湿気を含んだ空気に満たされた朝の林道脇で身支度を整えていると、
「いやぁ、完璧ですね。今年こその尺岩魚、おめでとうございます!」
お決まりとなったプレッシャーが飛んできますw
梢の合間から仰ぐ空は清々しいと言う他ないほどに晴れ渡っており、周囲を満たす昨晩からの湿度も、すぐに気にならなくなるのでしょう。
暑くなりそうでありました。
関東以西では大雨警報が出されている事や、残っている仕事、娘の受験準備や出発前に故障したエアコンの修理費用など・・・それまでは様々なものがこの身に絡み付いていたのでありましたな。
しかし渓に降り立つや、それら全てはどうでも良い些事となってしまいました。
河畔にある岩や木の根を覆う苔や地衣類は、フカフカと柔らかそうに朝露に光っており、入渓者の少なさを物語っているようです。
渓畔林の梢を透かして流れに降り注ぐ午前早くの日差しは、所々に光の水溜りを作るようであります。
ただでさえ美しい渓相にアクセントやリズムが生まれて、気持ちの奥の方からワクワクしてくるのを抑えようがありません。
気温の高まっていくこれからの季節、あまり天気が良くても釣果が振るわない要因となるのでしょう。
しかしこれが小雨まじりの天気だったりすると、渓筋の景色は途端に陰鬱な様相となってしまいます。せっかくの気分に強力な下降圧力がかかってしまうのですな。
やはり渓流釣りはお天気の方が良いのです。
肝心の釣果はといえば・・・もうそこら中がポイントに見えるのですが、わりとかわいいサイズのイワナがポツリポツリと。
初めて訪れる美しい渓で、ちゃんと魚たちに相手をしてもらってるのですから、あまり贅沢なことは言えません。
しかし、昨晩の前情報からすると肩透かしと言える展開でありました。
「ひどいやSさん、尺上イワナがボコボコだと言うから勇んで来たのに;;」
「尺はいますよ。釣れないなら、まぁウデのせいでしょうねw」
氏は時々、明け透けで辛辣であります・・・
そうは言っても、大好きな岩手の美しい渓の中で、これ以上ないくらいの条件の中釣りをしているわけであります。
アアでもあろうかこうコウでもあろうかと、この日のために準備して来た沢山のフライ・バリエーションや、培ってきた技術を総動員しつつ釣り上がっていきます。
集中しているほど、歩くほどに身体が軽くなっていくのを感じます。もう楽しくて面白くて、あっという間に時が過ぎてしまうのでしたな。
「うーんイマイチですね。明日もありますし、この辺で上がりましょうか」
気がつくと、時刻はすでに15時前となっておりました。正直な気持ち、真っ暗になるまで釣っていたかったのですが、再び1時間ちょっとをかけ盛岡まで帰らねばなりません。
午後になればライズがあるはず・・・と言うポイントを最後に、ストップ・フィッシングとすることにいたしましたな。
「ああ、いますね。まぁまぁのサイズ・・かな?」
「え、どこですか?全然見えないっす;;」
「え? あそこ、見えないですか? ほら二匹見えてますよ。流心に一匹、左の溜まりに一匹」
実は今回の釣行で、以前よりもしかしたらソウかも知れないと考えていたことが、確信に変わりましたな。
数年前に大枚叩いて誂えた度入りの偏光グラス・・・レンズの色はブラウン系なのですが、このフィールドのように頭上を木々の梢に覆われたりしてローライト気味であると、相当に視界が暗くなってしまうのであります。
湖などの明るく開けたフィールドでも、イブニング遅くまで戦い続けるとなれば視界の暗さにストレスが溜まり、通常のメガネに切り替えることもありましたな。
これを作った時分では、ロードバイクでのライドと併用しようと言う前提でチョイスしたレンズカラーでありました。
その目論見はまぁまぁ達成できておると思っていますが、流石に極端条件では、それぞれに都合の良い結果を得ることは難しいようであります。
やはり二兎を追うもの一兎をも得ず・・・と言うことでありますな。
これも良い経験になりました。今後はどうしていくのが良いか、帰ったら早速考えてみることにいたします。
「あ、ライズした!これは獲らないといけないシーンですよ!」
言われずともわかっております・・・
Sさんはここまで来たにも関わらず、未だ満足なサイズの魚を釣らない私の不甲斐なさに少々イライラしておるようです。
その控えめで目立たないライズは辛うじて私にも見え、おかげで岩魚のシルエットを追うことができるようになりましたな。
魚の行動を観察し、フィーディングレーンを読みます。どうやら低層から中層を行き来しつつ、緩い流れの筋に乗ってきた流下物を捕食しているようであります。
ライズの仕方はゆったりとしたもので、何かしらを警戒している様子は感じられません。これはイタダキであります!
フライをそれまでのブラウン・パラシュートから、ブルーグレーのCDCソラックス・ダンへ結び変えましたな。
ティペットをコントロールできる自分の射程範囲まで、流れの中を這うようにしてにじり寄ります。
ウェットウェーディング装備なので少々パンツが濡れてしまいましたが、もうそんなことを気にしている場合ではありません。
ここでアレを捕らなければ、この岩手遠征初日は完結できないのであります!!
「ぅわぁ〜〜っ!見切った・・!」
完璧なコントロール(自分比)でレーンを捉えたはずのCDCソラックスは、見事にそっぽを向かれてしまいましたな・・・
しかもあろうことか、浮き沈みしつつもギリギリで見えていた魚はどこかへ消えてしまいました。
これまでたくさんの悔しい思いをしてきた経験から、フライに興味を示したにも関わらず食い切らなかった魚がいる場合、「同レーンに同じフライを投じるのは2回まで」と決めております。
それ以上叩いても、3度以上は反応することは稀であると感じているからであります。
「かなり小さなものを狙って食べていたのかも知れませんね・・・」
静かなライズの仕方を今更に思い返せば、水面膜にぶら下がった状態のものを選んで捕食しているような気もします。
しかしもう魚はいなくなってしまいましたな。後悔先に立たずであります。
「仕方ない、作戦変更で。小さなフライを置いて見つけてもらうようにしましょう」
姿は見えておりませんが、まだ溜まりでクルージングしているであろうもう一匹に狙いを変更です。
この季節のボックスへ入れてあるフライの中で、信頼している最も小さなフライといえば、#20のグリフィス・ナットでありますな。
しかしまさか盛期の東北釣行で、初日からこのようなミッジングを行わなければならなくなるとは・・・
6ft 9inというショートなバンブーロッドを起用していたことにも少しだけ後悔しつつ、静かな水面へ向け、できる限りのロングキャストでフライを置きます。フライが認識できるギリギリの距離感でありましたな。
着水から10秒、20秒・・・30秒が過ぎました。水面から高く浮くフライなら、この距離でもバイトの瞬間はわかるはず・・・
フライから50センチも離れた水面で、魚の起こしたであろう揺らぎが起こりました。どうやらフライの存在には気がついているようであります。
それでも食ってこないのは疑われてる?フライを餌と認識していない?出来が気に入らない?別の何かを偏食してる・・?
いよいよ痺れを切らし、再度のフライチェンジを考え始めたタイミングで「少しだけ動かして誘ってみましょう。ホンの少しだけ!」S氏のアドバイスが飛びます。
確かに、メンディングなどでフライにアクションが加わった際に魚がヒットしてきた経験はあります。意図して行うのはフラッタリングと言いましたかな?
しかし活性が高いと思われる状況でないと裏目に出ることが多い気がしており、Ossanの中ではあまり積極的に行おうとは考えていないメソッドでもあります。
半信半疑。
数メートル先の#20フライに、微細な振動が伝わるイメージでメンディングを入れます。もしフライが移動してしまっても、5センチ以下でなんとか・・・
「ほら食った!」
「!!」
遠く浮かんだ小さなフライが、水中へ吸い込まれるように消えたところで、こちらもその速度感や力加減に合わせるつもりで極力ソフトな合わせを入れました。
直前まで長閑にフライを浮かべていた水面をラインが切り裂き、ロッドは今日一番のベンディングを示します。
「ああ〜ダメ!そっちはダメ!!」
岸際に絡むように沈んだ枝に突進しようとする魚をなだめ流心へと誘導し、小さなフックへの不信感でヒヤヒヤしながらも、なんとかネットインすることができましたな。
今見返してみれば24㌢そこそこの岩魚でありましたが、なかなかパワフルなファイトで、痺れる展開でもありました。
流れへ駆け戻っていく魚の後姿を見送りながら、今日の釣りがしっかり閉じられたという充実感や安堵感に包まれつつも、フライを見切って消えたターゲットへの悔しさも混じり込んで、少々複雑な心境でのストップフィッシングとなりましたな。
しかしまぁ、あと一日と半分。まだ見ぬ渓や魚と相対できる時間が残っております。
そしてまたS氏のアドバイスのおかげで、自身のFFの引き出しが一つ増えた気がいたしましたな。
ホテルへ戻った後はすぐにシャワーを浴び、コレまたお楽しみの一人反省会へと繰り出しました。
知らない街をブラブラと歩くのは何事も刺激的で、ついつい深入りしてしまいそうになります。
しかし明日も釣りができるのですからな。程々にしておかなくてはなりません。
居酒屋のカウンターで一人、Twitterや魚の写真を眺めてニヤニヤしているオッサンというのも、側から見れば色々とヨロシクナイ眺めに映るかと推察されますな。
しかしその人物は実のところ、幸せに包まれておる真っ最中であるかも知れず、明日への期待に満ちておることだって、極稀にはあるということであります。
何より我が滞在中の岩手県は、ず〜っと晴れの予報なのでありますな。
〜〜後編に続きます〜〜