憧憬のBlue-Dun(とクイル・ゴードン)

男は人付き合いが苦手である。

言ってしまえば昔から嫌いである。

一番面倒な生き物と無理をして社会生活を送ることなどよりも、独り山や渓に分け入り、野生の気配に慄きながらも魚達と遊び、それらの声に耳を傾けるほうが余程気が利いていると感じている。

それはささやかながらも人様並みに家庭を築けた今でも変わらない。

周囲は面倒くさいヤツと見ているだろうし、それで良い。

今も昔も異性となれば、人一倍興味はあったくせにイザその時になるとからっきしに奥手。愚鈍である。

だからと言って、心の中までそうだとは限らない。

所謂、ムッツリスケベだ。

到着ロビーは羽田とは明らかに異なった空気で満たされていた。雪に閉ざされる季節をようやく脱し、あと少しで日光に満ちる歓喜の時を迎えるのだろう。

どうしてそんなに大音声である必要があるのか、騒々しい言葉を話す団体旅行者たちのいる方向からふいに、声を掛けられた気がした。

「やっぱりそうだぁ〜 ひっさしぶり〜!」

視線は合ったが、人違いをしているのだ。

聞き覚えのない声。見覚えのない顔。

なので目を逸らした。

どちらのバツも悪くならないように。

それでも雑踏から、数人が振り返るような声をあげて女がやって来る。

明らかにこちらを目指して。

「間違いないよ〜 OSSANでしょw」

「・・!?」

おかしいな。覚えのある限りではこちらへ移り住んだという噂を聞いた知人はいない。

面倒な挨拶まわりが終われば午後遅くにはまたこの空港へ戻るのだ。この街にそれ以上の用事はない。

そして明日は誰がなんと言おうがあの渓に行くのだ。

だが女は男の名を口にした。

余程自信があったのだろう。こちらが後退りしたくなるような速さで距離を縮めてきた女は今にも男に掴みかかりそうに思えた。

「え、あ、やぁ。久しぶり・・」

いつものクセで咄嗟に話を合わせようとするが、やはり女は敏い。

「え〜 覚えてないの〜!?」

怜悧とも思える整った目鼻立ちが、少しいたずらっぽそうな表情で不釣り合いだ。瞳をいっぱいに見開いてこちらを見上げる。

蘇る。

30年も前なのだ。学年でも人気のあったあの娘。

ガードが固く、ちょっとお高い雰囲気もあり、実際に地元では高級住宅地とされる地区から通ってきているという話であった。

当時まったく相手にされなかった男もご多分にもれず、仲間達と彼女に関してのくだらない噂話にうつつを抜かした時期もあったはずであった。

卒業以来、何の音沙汰も聞かなかった彼女が目の前で男を見上げている。

少女から発散していたであろう何かは男と同様、とっくに失われたのだろうが今は全身で発光し、溌剌として眩しい。

記憶のままとは言わない。若作りとも思えるスキッパーカラーは、なだらかで華奢になった印象の肩から浮くように見えた。

やはり時は過ぎているのだ。

阿呆のように口を開く男を見て満足そうに、あの自信に満ちて人を小馬鹿にしたとも見える表情と姿勢へ一瞬で変貌した女が言う。

「思い出した?」

それがあまりにも記憶の中の彼女のままで、少し吹き出した。

「あたり前だよ。」

「こんなとこで仕事?私もだけどね。時間あるの?」

「夕方なら。明日には帰るんだ。」

小さな嘘をつき、約束をした。

ベストシーズンの釣行が一度、消えることになる。

まあ良いか。

溪は逃げないし、心躍ることには違いないのだから・・・

そう。

そんな誰にもある(ねーよ!)甘酸っぱい記憶をいじくり倒し、脚色しまくっていつものように妄想を暴走させ、もう元はどんな話だったか訳がわからん程に美化されてしまった憧憬の色

OSSANにとってブルー・ダンというハックルはそんなカラーでありますな。

ね。恐ろしいでしょう?

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鶏の羽のお話しだったんですよ・・・

調べてみますと、Blue-Dun と言うカラー表記はホワイティング社のものでは既に無くなって久しいようであります。

この一年間、探しまわりましたがやはり見つけることはできませんでしたな(だから無いんだってば・・・)。

現在このハックルを指定するフライに用いる色としてはダーク、ミディアム、ライトそれぞれに染色されたDunが主流とのこと。

「ダイドか・・残念だな~・・・」と思っておりましたら、METZ社の物には見つけることができました。

しかし、毛並みを見てみるとちょ~っとばかり枯れ過ぎている印象でありましたな。(記憶にしても、30年程が賞味期限ということでありましょうか・・・)

ショップで穴が開くほど凝視して連れ帰るかどうか迷ったのでありますが、その隣にコレがありましたな。

ホワイティング・ブロンズグレード・ライトダイド・ダン。

おお、美しい記憶が・・・

やはりホワイティング社のハックルの方がOSSANのメイン・フライサイズである#14~#18は沢山取れそうでもありましたな。

METZ社のブルー・ダンの美しいゴマ斑模様にも惹かれましたが、全体のふんわり感やファイバー密度にも相当の差があり、こちらを購入であります。

ブルーの亜成虫(ダン)でありますか・・・柔らかそうなあの透明感や質感と、このハックルの持つ儚げなスモーキーさがオーバーラップしますな。

さ~て。

ハックルをむしるのは毎度惜しい気持ちになってしまいますが、フライを巻かないことにはお魚も釣れませんのでね・・・

「ブルー・ダンを手に入れるまで巻かない。」(巻けない)

そう決めていたフライを巻きますな。

古典的キャッツ・キル・パターンの名作中の名作。

セオドア・ゴードンさんという方が考案されたクイル・ゴードンであります。

(クイル・ウィングのblue.dunじゃないのかよ?というご意見はありましょうが、そのうちネ・・・)

ブルーダン・ハックルをまだ持っていないということと、ボディ材のストリップド・ピーコックハールを綺麗に巻くのに、どうしてもこれが必要でありました。

バランスが難しいでありますな。

バンチ・ウィングは苦手であります(クイル・ウィングは更に・・・);;

テイルはコックデレオンであります。

しかし何とも言えない、儚げなスモーキー・ブルー

少しでも白泡に紛れたら、消え入ってしまうでありましょうか。

雑踏に見失ってしまえば、また長い月日が流れるのでありましょうか・・・

ヒラタカゲロウ類を模したフライと言うことであります。日本にも様々なタイプが生息しておるとのこと。

今年はもっと水辺の昆虫たちに注意を向けられるような、余裕あるフィッシャーメンになりたいものであります。

これだけあれば一年は持つでありましょう。#14と#16で巻いておきます。どうしたってパラシュートの方が優先的に使用されますからな・・・

これが春まだ浅き、弱々しい日光に透かされて。

若しくはその淡いブルーを際立たせるような曇天のもとで、トラウトたちを惑わせてくれるでありましょうか。

ティペットはチリチリになるとしても。

ココゾと言うときの大事なスタンダード・パターンとしてボックスへ納めることといたします。

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