しかし流石でありますな。
約178㌔の堂々たる流程を持つ鬼怒川には、気になる支流や沢がたくさんあるのであります。
2日目はそのうちの一つ、D谷に入ってみることにしておりました。
初めての車中泊では、まったく問題なく熟睡することができましたな。
元々どこでも眠れる質でもあり、あまり心配もしておりませんでしたけどネ。
完全に横になることの出来ないシートアレンジでしたが、おかしな体の痛みも発生せず、一泊程度なら十分対応可能であることが分かりました。
もしかしたら、テントを張るよりも体力的に楽になるかも知れません。今後落ち着いて考えてみることにいたします。
4時前には明るくなり始め、怖くなくなったので入渓ポイントに移動しましたな。
もう水温は十分でしょうが、あまり早朝に良い思いをした事もないのでゆっくりと朝食を摂ります。
増えていく鳥たちの声を聞きながら、虫たちも動き始めるのを待つのであります。
少々肌寒く感じ、ウェーダーを履くことにしましたな。
ネオプレンソックスが一晩では乾かず、ソレを履くのがちょっと嫌だったのでもあります。
身支度を整えつつ、雑念を振り払うよう努めます。
今日釣れなかったら帰れませんw
緩み切った集中力を再び奮い起こそうとしますが、なかなかエンジンに火が入らないのでありましたな。
購入したばかりのTMC・フライピットを無くしてしまったからであります;;
どうやら昨日の鬼怒川で落としてしまったようなのです。
釣りの最中に数回、ピンから本体が外れたりしていましたので嫌な予感はしていたのですが・・・ああ〜もう!
どうもこれらのツール類は無くしやすくて困るのであります。
メーカーさん、少々過剰になっても良いのでこういうトコロ、何とかならないものでありましょうか?
しっかりとした踏み跡から入渓(伏せていますが、相当な有名河川であります)します。
昨日の鬼怒川本流とはまったく趣の異なる、鬱蒼と木々の迫る渓流ですな。
山岳渓流と里川の間の感覚でしょうか。流れは清冽ですが川底の岩は茶色のヌルに覆われ、少々滑りやすい感じです。
川幅は2〜3m。水量も少なく、ポイントとなりそうなのは多少でも水深のありそうな部分に限られそうです。
日もまだ低く、どことなく陰鬱な雰囲気が漂います。
「ちょっとプアな渓相かな〜・・・」などと考えつつ、直径1.5mほどのプールへフライを投じました。
ドリフトを考える余地すらないほどの速さで岩影に入ったフライをピックアップするため、無造作にロッドを煽ったその時。
ぐぃぃん・・・ドッパン!!
尺に絡みそうな岩魚が目の前を落下していきました・・・
ぅうわぅあぁあfsdぱkんvぴあお!!
チカラ加減も何もない雑な動作は、ズシンとした質量を一瞬だけロッドに伝え、魚とラインとフライを上空に跳ね上げました。
“ハッとした瞬間“以降はまるでスローモーションのように、まだ薄暗い川面に鮮やかな白とオレンジを発光させる大岩魚が落ちていくのを、ハッキリ見てしまいました・・・!
ヤっちまった・・・!
・・・あぁぁっ!! やっちまった〜〜〜っ;;
あんな魚は恐らく、始まったばかりの今日中に、二度とOSSANのフライに出てくれないのです!!
昨日から・・否、数年前から計画を練り、それを手にできれば全ての労力も報われたであろう獲物だったのです!
大きな魚ほど、余程の幸運とタイミング、その他様々な要因が重ならないと出てきてくれないのです・・・。
何ともならない事はわかっていますが、魚の落ちて行った水面から目が離せなくなります。
心拍がゾーン4まで一気に跳ね上がり、指どころか身体中がブルブルと震えだします。
もうダメです。
倒れてしまいそうです。
ヨタヨタと近場の岩へ這って行き、腰を下ろし煙草へ火をつけようとしますが、こんな時に限って上手く着火しません。
「この・・・っ!!」
ついカッとなりIMCOを地面へ叩きつけようと振りかぶった時、その腕に巻いたスマートウォッチがSNSの着信を知らせ、思い留まりました。
あんな大物がこんな小さなポイントに・・・いっそ水に浸かって手掴みしてやろうか!?
震えの収まってきた指先で吸い付けた煙草を嬲って尚も水面を見ていると、脇に見え隠れしていた急傾斜の林道を数台の大型ダンプが登って行きました。
ここへきて、初めての人類経済活動でしたな。
この景色と雰囲気に決定的に似合わない、耳障りな轟音であります。
ワシは、フライフィッシングをしにきているのだ。
危うくアングラーとしての誇りを失うトコロでありましたな。
大丈夫、ダイジョウブ・・・まだ今日は始まったばかりだかんね。
この後どんな良いポイントがあり、どんな化け物に出会えるかも分からないのだ・・・!
ケチのついたティペットを結び直し、力の抜けた膝に喝を入れなおします。
結構な時間を費やして、気持ちと心臓を落ち着かせたのでありました。
二度と雑なキャストをしないよう決意を新たに遡り始めると、鳥たちの声はさらに賑やかに。
ハルゼミも鳴き始めました。記憶の中には無い、細長く素早い5㍉ほどのカディス。
同じく初めて見る#16ほどの薄いグレーと、濃い目のジンジャー色のメイフライ達も舞い始めました。
梢から差し込む新鮮な日光が朝靄を払っていきます。風に靡く薄手のカーテンを見るようです。
比較的水深のありそうな、五〜六畳ほどの緩やかな流れの開きがありました。
上流は少しだけ先細り、落ち込みから数メートルは両脇を大きな岩で挟まれています。水通しが良く気持ちよさそうで、身を隠すにも好都合でしょう。
自分が魚ならばアソコにいますな。
選り取り見取りと言える虫たちの中では、何がお好みでありましょう?
ティペットを3フィート程継ぎ足し、丁寧にストレッチボディ・パラシュートを結びます。サイズは#16、ハックルはバジャー。
オレンジのポストがソラックス部で透過するように小細工したスペシャルであります。
いい加減、魚を手にしないと非常にマズイ展開なのでありますな・・・。
まだリズムの掴み切れていないと感じているリバーソングは、二度のフォルスキャストで柔らかくフライを届けました。
ターンはちょっと弱めになってしまったようですが、
・・・出ますな・・・
フライを打ち直したくない・・・と集中した結果でありましょうか。
思い描いたタイミングで、フィッと消し込むようにスペシャル・フライを押さえ込んでくれましたな。
鮮やかな白斑の奥に燻む群青を隠すような、とても美しい岩魚でありました。
ようやくのことで初釣果を得ることができたのでありました(大泣)。
いやはや。
「最初の1尾に全てがある」と言うようなことを申します(よね?)。
こんなペースで魚たちと遊んだことを書き散らかすと、文字数ばかりが大変なことになってしまいますw
チョイと早回しをかけて参りますな。
いくつかの堰堤を越え、日が高くなるに従って、ウェーダーで来てしまったことを後悔しましたな。
せっかくウェットウェーディンング装備を揃えたのですし、まさにこのようなフィールドでこそ、その運動性が生きるはずだったのですあります。
朝昼の気温差はツライですが、多少の我慢も必要であるということを学びました。
この後も飽きた頃にはポツリポツリと釣果がありました。
皆美しい岩魚たちでありましたが、やはり朝イチの大物に匹敵するような魚は出てきてくれませんでしたな。
イヤ、それにしても歩きました・・・
早めの行動食を済ませ正午を過ぎた頃、高巻き&直登不能の滝に行き当たってしまいましたな。
若い頃なら無理もしたでしょうが、随分と遡ってきて疲労もピークに達しかかったところでの出来事であります。
実は釣りを終えてから見に行っておきたい場所があったこともあり、ここを最後のポイントと決めました。
見るからに何かが居そうな滝壺は不思議な水色を帯び、十分な水深もありそうです。
夥しいメイフライたちが乱舞している最中でありましたな。
あまりにドンピシャなシチュエーションなので、しばし距離をとって観察することにしました。
すると左岸に屹立した岩盤の下流側で、その日最初で最後のライズが起こりましたな!
その様子から、それほど大きな魚でないことは明らかでありましたが、ココを最後に引き返さねばならないのです。
これまた釣らないわけにはいかない状況なのでありました。
一眼で喰う決心をして欲しいので、フライを#14のアダムス・パラシュートに切り替えボリュームUPします。
浮力を少しでも維持させるため、ダビングボディのフライを避けていましたが、水色と飛び交う蜉蝣にはこれがピッタリ合うと感じたのですな。
イヤらしく垂れ下がる木の蔦を避けて、先の水面へねじ込みました。
ショートロッドは、こんな場所での武器となりそうです。
すぐにドラグがかかって沈みかけたフライを引ったくったのは、予想に反して野性味を感じさせるヤマメでありました!
それまで岩魚ばかり相手にしてきましたし、いるとは思っていなかったので少し慌てましたな。
岩魚たちとは明らかに異なる、目の覚めるような疾走と、ローリング・ファイトを魅せてくれました!
ああ、やっと。
これで、満足することができたのでありました。
この自然堰堤では他に真っ黒の岩魚を一尾追加。
初見は一体何が釣れてしまったのかと思いましたなw
岩魚は本当に不思議なサカナであります。
少々川を下って林道へ攀じ登ると、ほぼ体力を使い果たしていることに気が付きました。
気温・湿度も高く、ウェーダーや着ている服が身体に纏わり付く不快感を堪えながら車まで戻ります。
一瞬、「あの大物岩魚ともう一度・・・!」とも考えましたが、体の上げる悲鳴に抗うほどの根性も、やはり残っていないのでありましたな。
悲しく情けないことでありますが、現実なのであります。
良いでしょう。
我が家からこのD谷へのアプローチにかかる時間もわかりましたし、次回はもっとウマく釣れる気がします。
気がするだけですが、そうに違いありません。その筈ですな。
そうであれば、あの大物はもうOSSANのモノとも言えるのです・・・!
その時まで、待ってろよ大イワナ!
帰りがけの駄賃に、気になっている渓へ続く林道を見に行きましたな。
崩落の為立ち入り禁止になったまま、長いこと放置されているようでありました。
その幻の溪へは、林道を相当な距離辿るしかなさそうなのですが、修繕される予定もなさそうな雰囲気でありました。
このまま廃道となってしまうのでありましょうか?
MTBなら行けるかも・・・と思っているのでありますが、さて。
行けるとこまでは行ってみても良いのかな?
入ったら怒られちゃうのかな?
年甲斐なく冒険心に火がついてしまったOSSANは、早くも次なる釣行の準備を進めておるのであります。
コメント
惜しかったです。
尺岩魚を釣りあげられるのを待っております。
ハッチのフライリールは垂涎であります。何度も#2か#3か悩んでいるまま、時は過ぎゆくのであります。
そこにバウアーも気にかかり小さな脳みそは判断不能となりました。
イイのです。ラムソンLS-1 (黒とシルバー) &ウォーターワークスF2 で。 P1もかっては持ってたし。(ブレーキがないと藪漕ぎでトラブルあったからネ)
柳の下を狙って、雨の降ったのを待っていきました。
バイトははかばかしくないものの、24~5センチで肥った岩魚が12匹はかかりましたが、最後に29センチが釣れました。逆光ですが、前回定位してる岩魚を見てたので、25センチくらいと思ってました。
泣き尺なのに、前回の印象から小さく感じてしまい、検尺しまちた。
FFfreak 様、おはようございます。
岩魚の生態や性格、自身が嗜好するフィールドの傾向からして、ヤマメよりは可能性があるのではと思っています。
フライリールは個性が強くて面白いですね。
スピニング・ベイトリール等、世界一の技術を誇る日本のメーカーにも無い魅力があります。
小規模メーカーならでは・・・と言うところでしょうか。
近頃はメジャーを持ち出さないようになりました。
ネットやロッド、自身の手など魚との比較対象となるものを一緒に写真に写るようにし、あとで割り出すようにしています。
そうすれば29センチだった魚も、ブログをUPする頃には尺に育っているかも・・・w
OSSAN様、こんばんは。
大作の釣行記、引き込まれるように拝読いたしました。
思わず焼酎の杯を重ねてしまい平日からベロ酔いであります。
私、現在関西在住ですが数年前まで業務上、栃木におりました。
その頃は、海の釣りに夢中で、地場の河川そっちのけで、大洗くんだりまで
出かけておりました。今思うと、なんともったいない事をしたのかと悔やんでおります。
大型ダンプの下りが、彼の地を象徴しており何とも懐かしく思い返されました。
はぐれディック尊皇派様、こんにちわ。
この釣行のために色々調べましたが、栃木は魅力的な溪が多いようですね。
行ってみたいと思っている場所がまだまだあって困ってしまいます。
片道1時間ほどに収まれば助かるのですが、そんな場所が皆無なので、釣行にはいつも思い切りが必要です;;
たまに海もやってみたいと思いますが、今はやはり渓流と溪魚が好きです。
今後ともよろしくお付き合いの程、お願いいたします。