で、ちゃんと釣れたのかい? ~三日目~ 良い渓に巡り会えたこと。

二日間ともに、「最後の最後に一尾だけ!」という、非常にオモシロ辛い状況となってしまいましたな。

足を滑らせての大腿部打撲と、加速付きの体重を支えてしまったせいで身体の上半身までもが痛みます。

それでも騙し騙し、何とか釣りを続行していたのでありますな。

もっと粘れば釣果を伸ばすことも出来た(ハズ!)でしょうが、車へ引き返すまでの県道では足元がフラつくほど消耗してしまっておりました。

スッカラカンになってしまった事を訴える身体を引きずるようにキャンプ場へ帰ります。

家へ帰って調べたことですが、この二日間連続で3200㌔㌍ほどを消費しておりましたな。

ちなみにワタクシの場合、日常では2200~2600くらい。ロードバイクで100㌔ほど走ると5000㌔㌍以上を消費するようです。

ロードワークほどではありませんが相当の汗もかいて、塩分も補給しなければならないでしょう。

何が言いたいのかと申しますと、

細君から買い与えられたものの中で、珍しく気に入っておりますw

ということであります!

追い込んだ身体へキンキンに冷えたビールを流し込む瞬間と言うものは、もはや世に比肩するもののない快感なのでありますな!

この日も貸し切りとなったキャンプ場でお決まりの唸り声を上げつつ、まだ明るいうちに夕食を食べ始めてしまいました。

あまりに腹が減っていて、本を読みながら夕暮れを楽しむ余裕など無かったのであります。

道すがら、氷と併せて普通の一番搾りも購入しましたな。

これほどの飢餓状態になったのは何年ぶりでありましょう。

自然解凍の進んだ枝豆と、一昨日が消費期限だった出来合いの鶏ムネ肉瀬戸内レモン添え。更に勢いづいてお湯を注いでしまったカップ麺の美味かったこと・・・!

いいオッサンがまだ明るいキャンプ場でガツガツと上記を貪り、物凄い勢いでビールを呷り、そのうえ唸り声まで上げているのです。

誰もいない山中のキャンプ場とはいえ、ちょっとこれはヒドすぎます。とてもじゃありませんが、娘には見せられない光景なのでありましたな。

それにしても。

素晴らしい季節に会津へ来られたまでは良かったのですが、これほどの苦戦を強いられるとは想定外でありました。

根拠など全く無いのに、昨年訪れた際の手応えの記憶だけで「今回は良く釣れるだろう」などとイメージしていたのでありますな。

「釣れる・釣れない」には様々な要因がありましょうな。

たくさんの道具やフライを準備しても、どれだけキャスト技術を磨いても、相手は立派な本能や意思(?)を持つ生き物であります。

「この日に行くしかないから!」等とこちらの都合を押し付けてみたところで、相手をしてくれるかどうかはその時の魚のご機嫌次第なのでしょう。

そんな事をボロボロのコールド負けを喫したあとに、こうして思い出しているのですから世話はありません。少々傲慢になっているのかもしれませんな。

今日の経験は

残念だったな。

お前の計画は0点だww

という事実を突き付けられてしまったのだと言えそうであります。

皆さんは覚えていらっしゃるでしょうか?ワタクシは忘れておりましたw  ようやく封を開けたのであります。あれから三年が経過したということなのですな・・・

実は残りの半日で、もう一本見に行っておきたい渓もあったのです。

しかしこの良くない流れを断ち切るべく、明日は教えて頂いた渓一本に絞る事を決意したのでありましたな。

ワインを開けてサティとヴァラドンの葛藤に想いを馳せてみようとしましたが、伊産ワインでは明るすぎて、うまくいきませんでしたな。

雲で覆われがちとなった夜空は、昨夜ほど気温を奪っていかず暖かでありました。

あの日以来、車に積みっぱなしであったパスタでトドメを刺して、早めにテントに潜り込むことにいたしました。

翌朝。

前日は感じなかった地面の硬さのせいで何度も起きてしまい、ボンヤリした目覚めとなってしまいましたな。

しかも夢の中で仕事をしていたのですから最悪です。

テントから這い出した瞬間に吸い込んだ清浄な空気と、鳴き交わされる野鳥たちの声が無かったら、随分と惨めな気分になってしまうところでありました。

朝食で納豆を食べると調子が良いのでありますな。それぞれは美味しいのですが、今後は食べ合わせを真面目に考えてみなければと思いました・・・

そうは言っても、もう最終日なのでありますな。

朝食の食べ合わせに今後の課題を発見しつつも、ゆっくりと心のエンジン回転数を上げてまいります。

サイト撤収や帰宅してからの片付けの時間なども考えると、粘っても14時頃には引き返さなくてはならないのであります。

最終勝負への決意で朝から血圧を高めに保ちつつ、教えてもらったLF川へ参りましたな。

地質はこれまでの川とは異なっているようでありました。

小渓流でありました。沢と言ってもいいかもしれませんな。水量も少なく、深みのあるポイントは少なそうに思えました。

良いリズムで木陰が川面を覆っています。水際の植生は瑞々しく、訪れる人の少なさを物語っておりましたな。

鳥たちの声とせせらぎの音しかない景色の中でロッドを繋ぎ、日差しに本格的な気温の上昇を予感しながらボックスを開きます。

辺りには5ミリほどのグレーと濃いめのジンジャー色の蜻蛉が飛んでいますが、水面に絡む様子は伺えませんでした。

当てずっぽうの#16のパラシュート・アントを結んでいると、ほんの微かにあの匂いが風に混じっている事を感じましたな。

この釣行で初めて感じる、魚の匂いです。

・・・釣れますな・・・

逸る気持ちを抑えるのに、小さな努力が必要でありました。

遡り始めると、当初予想したより様々な表情を持った流れであることがわかりましたな。岩盤脇のチャネル、数段の釜を形成する落ち込み、倒木で手の出せない淵・・・

リーダーに絡む蜘蛛の巣にはイライラさせられましたが、夢中になって流れと遊んでおりました。

小一時間も過ぎた頃、ティペットの弛ませ方をコントロールしようと四苦八苦していたアントが、小さな飛沫の中に引き込まれました。

大きくなれよ~!

うはwちっちぇえww でも嬉しいなぁ!!

一尾は一尾。岩魚は岩魚であります。今日の釣りを救ってくれた魚には違いないのであります。

グラスロッドの大袈裟なシナリも相まって、サイズ以上のファイトを楽しませてくれたのは20センチほどの岩魚でありました。

操作に対する応答速度の鈍重と感じられるロッドですが、魚の重量感や抵抗力などの情報密度をとてもピュアに伝えてきます。

このように入り組んだ川でシルクラインと組み合わせるのは気が進みませんが、シンセティックラインとの組み合わせも十二分に楽しい竿であることが再確認できました。

手頃な岩に腰掛け、一服のルーチンを行いつつあたりを見渡します。相変わらず蜻蛉は舞っていますが、目マトイも増えてきました。

それほど人家と離れてもいませんが、やはり人の気配は希薄な川であります。側道もあった様子が伺えますが、今は完全に藪に覆われて再整備する予定もなさそうです。

漁協の放流にしても頻度は非常に少ないか、もしくは随分と長いこと行われていないと思われる小渓流なのでありますな。

人工物は森に飲み込まれつつあるように見えます。とても気に入ったのであります。

左右ともに高い木立に覆われ、日の差し込まない浅いプールが広がっているポイントに行き当たりました。

見るからに何かが潜んでいそうな雰囲気ですが、浅い水深と流れの弱さが相まって、できる限り遠くからのキャストを決めなければ即、魚をスプークさせてしまうタイプのポイントです。

どうアプローチするべきか・・・フライは何を、落とす位置は、立ち位置は、ロッドとラインの軌跡は、ティペットの伸ばし方は、頭上と後方の障害物は、取り込み位置は・・・

薄暗いそのポイントを睨みながら様々な要素を分析し、経験のヤスリにかけシミュレートします。

しかし思い出して書いてみると、現場ではあまり具体的に思考しているのではなく、あやふやな形状のままのパズルピースを直感的に組み合わせようとしているに過ぎないことに気がつきます。

この辺りが、いつまで経っても三流アングラーたる所以なのでしょうな・・・

そうこうするうち、今回の釣行で初めてのライズが起こりましたな!

水面に一瞬覗いた鼻先で、手にすることが出来ればまぁまぁ満足のいく魚であることがわかりました。

ヤバいです。ド緊張です。心臓バクバクです。

この先もっと良いポイントがあるのかも知れません。でも無いかもしれません。

確実なのは時間がそれほど残されていないことと、「このチャンスを逃がすことは、何があってもホントに決してゼッタイ許されない!」というアラートが耳鳴りのように鳴り響いていることだけなのですな。

尚も注意深く観察していると、そのライズはどうも複数の魚が起こしていること、水面に絡むユスリカの群れを狙ってのものらしいことがわかりましたな。

それを意識したフライへ結び変えるべきか否か・・・

未だコントロールが定まらないLDLラインとシステムは約14ft。バックハンドでのキャストを強いられる事も勘案し、そのまま#16アントを投じることにしました。

一番大きな魚に食って欲しい事と、このローライト状況でどこへ飛んだかもわからない、小さなフライを投じるリスクを避けたかったのであります。

3投だけ流してみて反応しなければ一旦場を休ませ、フライをチェンジするつもりでありました。

ゆっくりしたグラスロッドの反発力をフルに活かすつもりで、極限の注意力を注いだキャストでフライを送り込みます。

暗くてよく見えませんが、6Xティペットにはほんの少しスラックも入ったはずです。その先にあるのは、バジャーハックルで巻いた渾身のアントです。

出ろ!出てくれ・・・!!

高血圧までも動員した気迫の願いも虚しく、フライから数メートルも離れた場所でライズが起こってしまいましたな・・

仕方ありません。打ち直さなくてはならなくなりました。

ポイントに近い水面でラインを引き摺るのは嫌なので、メンディングをかけて流れ出しまでシステムを誘導してからピックアップします。

予定通りにあと2投するか、1投にしておくべきか。戻ってきたフライの水分を取り除きながら迷います。

その答えを出せないままに、先程起こったライズの1メートル先を狙ってキャストします。

全く届かず1メートルも手前になってしまったんですがww

「うぁ〜ダメか・・・このヘッタクソが!!」

悪態をつきますが、何がどうなるものでもありません。心のテンションがまた一段階ダウンしたことで、フライチェンジの意思が固まりましたな。

静かすぎる水面でこれ以上プレッシャーを高めたくありませんでした。

とその時に、気のない流れ方を続けていたアントは水中へ吸い込まれたのであります!

反射的にロッドを煽りフッキングします。

「ズドン」という感覚が手首から脳幹へと走り、最初に見たあのライズの主であることを確信しましたな!

「っしゃキタ!! たのむよ〜っ・・!」

渓魚とのファイトは一瞬であるのに、なぜああも長い時間に感じるのでありましょうか。

木影のプールで静かに暮らしていたその生命はいまossanと細い糸で繋がり、プレデターとの生死をかけた戦いであると感じているのでしょう。

それを本能で感じるからこそ、力の限りと疾走を繰り返すのでしょう。

それは彼ら彼女らの命そのものの発光現象ですな。一世一代の爆発的抵抗なのですな。

釣り人はその輝きを手応えを、ラインとロッドを通して感じるからこそ魅了されるのですな。

うわぁぁあ!ありがとう・・・ありがとう~!!(号泣)

肉付きの良い山女魚でありました。

サイズこそ25センチにも届きませんが、私にとってはまる二日間お預けを食った後の、千載一遇の大ヒットなのでありました!

かなり走らせてしまったのでプールでの二尾目も望めなくなりましたが、なんという満足感でありましょう。

なんという、泣きたくなるような充実感なのでありましょうか・・・!

Ossanはこの最終日、大変楽しむことができました。

手頃な規模とバリエーション豊かなポイントを擁する好みの渓相の中で、心の底から遊ぶことができましたな。

この後も時間の許す限り、初めて訪れる渓を探究する事ができました。ポツリポツリと反応もあり、もう数尾の岩魚を手にすることもできました。

今のはチョット良かったよな!?と思えるサイズの岩魚をバラしたり、写真へ納める前にネットから逃げ出されたりもしましたがw

キャンプ場のオーナーさんに感謝しなくてはなりませんな。

とても気に入りました。私の「カーティスクリーク」になってくれるでありましょうか。

溪から上がり、一昨日、昨日には無かった充足感を噛み締めながら林道を引き返します。

あれほど悲鳴を上げ続けた足腰に力が戻って来たようにも感じますが、もう帰らなければなりません。

少し傾いてきた陽の光が、まだまだ帽子や肩へ降り注いでおりました。

何もありませんでしたな。この三日間、何もありませんでした。

ここでは煩わしいマスクで己の発する熱湿や口臭に閉口することはありません。マスクの向こうにある不躾な眼を覗き込む必要もありません。

ササクレ立った心と接する故に己をササクレ立たせる必要がありません。

人生の選択の結果を自身に突き付け続ける事でさえ、ほんの少しの時ではありますがお休みすることも出来るのです。

唯々自在に、濃厚に揮発する山と渓の分泌物質を遠慮なく吸い込んで味わい飲み下し、渋く鈍い心と身体の隅々へ行き渡らせ、ひたすらに魚を追い求めるだけで良かったのであります。

今身体を満たしているものたちは、どれだけの時間、自身に寄り添ってくれるでしょうか。

ワタクシにはそれほど長い間でないようですし、近頃はその効き目が薄まり始めたようにも感じています。伝聞する麻薬のようでありますな。

途轍もなく複雑で繊細なルールに支配されるフィールドは今、初夏のダイナミズムで沸騰しています。

そんな貴重な瞬間を見逃すのでは、この短い人生において痛恨なのでありますな。

だからもし、

通勤途中や会議の最中、細君のお小言をいただく際や見たくもないニュース番組などに倦み続けている時、

あの「匂い」が鼻先を掠めるようなことがあれば、躊躇なく出かけてしまおうと心新たにしておるところなのであります。

コメント

  1. FFfreak より:

    やりましたねーー。

     引き込まれました。目が文字を追いかけていきました。やはり軽妙洒脱な文章だわ。
     それに私の現況がこのような浅く狭小な河川で4月から毎週やってるからでもあります。
     Covid19患者の市内発生でカミさんより近隣河川しか許されなくなった状況にやむなく。

     そしたら、今になったらこの丁寧な釣りというか姑息な釣り方が面白いです。
     チビちゃんを釣ってもヤッタゼー感覚なので、勃○しまくり状態であり、昔日の感覚はかくやと思わせるものがありました。
     「モノの大小ではないんだよ」否、サカナの大小ではありません。

     でも、そろそろ9寸以上が釣た―――いです。

  2. OSSAN より:

    FFfreak様こんにちわ!
    一心にフライフィッシングに打ち込めたことが嬉しくて、毎度のお寒い結果を書き募ってしまいます。
    今年はシンプルなページを作っていこうと思っていたのに、いよいよダメですね^^;
    いつか「ギンギンに漲った!」という報告が出来ればいいのですが、いつになる事やら・・・
    各所の減退具合に恐々としながらも、出来る限りフィールドへ向かいたいと思います!

  3. SHIMA より:

    こんばんは。SHIMAです。3日間お疲れ様でした。いやはやしかしいつも貴殿には感服させられます。色々な意味で最後に帳尻を合わせますね。新緑の渓畔林の中での渓歩きは、自分も大好きです。その時期、その時間にそこに居れることが幸せなことで、おまけに魚が相手をしてくれるこの遊びは、何十年経っても魅力的で薄まることがないです。疲れも気持ち良いものだったのでは。最後の、最後まで諦めず行動する姿勢は、歳を重ねる度に薄れゆく今の自分にとってとても新鮮で、初心を思い起こさせます。今シーズンまだまだこれからです。最後まで楽しみましょう。ところで、「とりあえずビール・・・」のTシャツはどこで。釣り場以外、街中でも着ているんですか。色々言われますが、大事にされてるんですね。うらやましい~。奥様、センスありますね。うちの家内ではとても無理ですけど。では

  4. OSSAN より:

    SHIMA様、こんばんわ。
    どうなんでしょう。帳尻があったと言えるかどうか・・・
    私としては最後までジリジリと悶絶するような釣りではなく、本当にソコソコでいいので1日を満遍なく釣れてほしいところなのですが;;
    それにしてもこの釣行は打撲のせいもあってキツかったです(実はドボンも2回ほどw)。
    体調が戻るのに数日かかってしまいました。普段からの身体コンディショニングの重要性を再認識しているところです。
    今シーズンにあと何度、驚きを探しに出かけられるか分かりませんが、安全第一で参る所存であります!
    PS 
    Tシャツは近所のスーパーで売っていたようです。見た瞬間「これだ!」と思ったとか・・・さすがに街中で着ていたら「変なOSSAN」になってしまうので^^;

  5. じゅんたろ より:

    フライっていいですよね~。
    なかなか上手くならないまま、いろいろなフィールドで悶絶しつつも、心からそう思います。
    初日の渓、私も大好きです。
    今回も楽しませてもらいました。

  6. OSSAN より:

    じゅんたろ様、お久しぶりです!
    フライフィッシングを構成する要素は広大かつ深淵で、知れば知るほどに疑問も湧いて面白くてたまりません。
    釣果としては返り討ちに遭うことの方が多いのに、フィールドでの経験全てを含んで、これほど楽しんでいる釣りはかつてありません。
    惜しむらくは、もっと早く始めたかったと言うことのみです。
    今後ともフィールドで悶絶する様をご共感、ご笑覧いただければ幸いです!