まぁしかし、贅沢に時間を使ったものでありますな。
この先には二ヶ所の大場所が控えているはずですが、時刻は15時前になっておりました。
これまでのようなペースで釣りを続けたならば、帰りには日の暮れた林道を引き返すことになりそうです。
ヘッドランプはサイトへ置いて来ていましたし、正直あの山女魚を釣ったことで満足しておりましたな。
今年も全国的に熊の出没が多いようなので、薄暗くなってからの行動は避けたいところです。
すでに疲労で脚が上がりにくくなっており、危なっかしくもあります。欲はかかないものですな。
ティペットを短かく戻し、転ばないこと最重視で上流の様子を見に行くことにいたしました。
とはいえ要所要所でフライは投じるわけでw
あの山女魚より明らかに勝る重量感を持った魚をバラしたりしましたな;;
折り重なった倒木が吐き出し口を覆っている、広く深い淵を持つ滝へ到着。一つ目の大場所であります。
様子を窺いますが、随分と水量が多いようでありました。魚は浮いておりませんでしたな。
フライを投げてみても虚しく水面を滑走するのみであります。
早々に見切りをつけて滝を巻こうとすると、右岸にあったはずの岩盤のステップがなくなっておりました。
元々脆く崩れやすい地質(しかも滑りやすい)であることは把握しておりましたが、水流による侵食、崩落によるものでありましょうか?
左岸は高度のある切り立った崖に木々も茂っており、人の通れる道はありません。林道へ上がるためには退渓ポイントまで引き返す必要があります。
そのような時間的余裕や、滑落上等で全身ずぶ濡れになりつつ滝を直登する気力は、もう残っておりませんでしたな。
残念ですが今日はここまでであります。
これより先にある堰堤でバラした魚との勝負は、また巡ってくることもあるでしょう。
小さな鳥が一羽、鋭く上流へ飛んで行きました。
カワセミでしたな。
退渓ポイントにあったはずの踏み跡(と言うか、そこそこ立派なダブルトラックだったんですがね・・・)もすっかり消えて、見つけるのに少々苦労いたしました。
たった一年で、ここまで様々な風景が変わってしまうのかと驚きましたな。
「うわ〜疲れた〜もうダメだぁ〜ひゃぁ〜いやだ〜早くビール飲みてぇ〜こんちくしょ〜グアぁあ〜!」
最後の最後に、カツカツの体力を振り絞って林道へと這い上がらなければなりません。
心拍数がMAX値の85%を超え、再び全身から汗が吹き出します。
そうした藪漕ぎ時の慟哭は、クマとの突発的遭遇を避けるためには役立つでありましょう。
しかし登り着く先の林道で人に出会ったりしたら、相当に気まずい思いをするのは間違いないことであります。
まぁ、そのようなことを気にする余裕はいつも無いのでありますが・・・
植林の森を抜けると、風に揺られるススキが夕日に光っておりましたな。
奇しくも今夜は中秋の名月であります。
採集なども滅多にしないことですが、今宵の酒盛りの友となってもらうべく、数本の穂を刈り取って参ることにいたしましたな。
ある程度の予想はしておりましたが、帰り着いたキャンプ場には大幅にテントの数が増えておりました。
ほとんどはファミリー用の大型テントですが、バイクツーリングの小型テントも数組見えるようであります。
思ったより繁盛しているようで、少しホッといたしました。今宵は音楽のボリュームも絞り、おとなしくしていなければなりませんな。
汗でビショビショで不快極まりないので、上半身裸になって頭から水をかぶってしまいました。
本人は爽快この上なしでありますが、他のキャンパーから見れば
「おっさんワイルドすぎだろww」
「おかーさんあのおじさんあんなとこで水浴びしてるよ?」
「よしこちゃん見ちゃダメ!コッチいらしゃい!」
・・そんな景色だったのでしょうなぁ・・・
シャワーを浴びに行けば数段もサッパリするのでしょうが、その体力すらも残っていなかったのであります。
昨夜は湿気がひどかったので、ウェーダーと共にシュラフを引っ張り出して干すことにしました。
さらに焚火台の燃えさしを整えておこうと振り返った瞬間、ガクッと膝から力が抜けましたな。
ヨタヨタと椅子へしがみ付かねばならない有様でありました。
いやはや何とも。
情けないことでありますが、年々体力の目減りを痛感せずにはおられないのであります。
こうなってしまっては、もう出来ることは限られておりますな。
まだ日の残るうちではありますが、明日の為にも体力の回復に専念してゆかねばなりません。
堂々としたオニヤンマの飛翔に惚れ惚れしつつも、夕景とポテチを肴に早くも幸せな独宴会へと突入していってしまうのであります。
クーラーバッグから、キリリと冷えたビールを取り出します。
さらにシェラカップへ氷を満たし、そこへビールをなみなみと注ぐのであります。
もし泡が溢れそうになっても、ここで焦って口を付けてはなりません。それは山川の神々の取り分として恭しく見送りましょう。
注がれたビールがしっかりと氷温に馴染むまで、最低でも21秒ほど待つ必要があるのです。
そうしてまんじりともせず視線も外さず。求める心を押さえつける限界が近づき全身が小刻みに震え始めれば頃合いであります。もう遠慮は要りません。
取っ手などとシャラくさいことは言わず、縁でも底でも構わないので二度と離さない覚悟を持ってガッシリとカップを掴んでしまい、勢い余って唇の端からビールが溢れてしまうのも構わず一気に喉へと流し込むのであります!!
ぐっ・・ぅあぁはぁぁ〜〜!!
OSSANはビールが好きなどと言うレベルではありませんな。愛してしまっているのであります。
特に今日のような汗も体力も限界まで振りしぼった後の一杯目には、格別の敬意をもって接することにしておるのです。
日常でもロードワーク後などで同様の状況となることはありますが、必ず晩酌の時間まで我慢することにしておりますな。
可能な限り、ビールとワタクシの間に割り込んでくるアクシデントが発生する可能性が低いことを確認した上で向き合うことにしているのであります。
お呼ばれするなど極特殊な状況でも無い限り、明るいうちや出先で飲んでしまうこともありません。
どうでも良い個人的コダワリのうちの一つでありますが、今日はやはり、特別な日なのでありますな!!
日もとっぷりと暮れ、あらかた出来あがって幸せな時間を楽しんでいると、背後から足音が近づいてきましたな。
「こんばんわスイマセン。焚き付けになるものを少し分けてもらえないですか?」
少し身構えつつ振り返ると、我がサイトの近くにテントを張っていたソロ・バイクツーリングの青年が立っておりました。
「焚き火がうまく着かないんです・・」
「ふぁい・・・これで良いですか?」
昨日拾い集めておいた杉の枯れ枝を指差すと、
「スゴいですねこんなに・・どこに落ちてましたか?」
「え・・」
ドコにも何も、サイト内は気合の入った清掃をされていますが、少し外れればそこら中が針葉樹の植林ですな・・・
「私も今夜までなんで、それ全部持っていっていいですよ。上手くいかなかったら着火剤もありますから・・・」
「ありがとうございます。頑張ります!」
遠慮せずに全ての枯れ枝を持っていったバイカーは、うまく焚き火を起こせたようでありましたな。
軽いイタリアの白ワインに切り替え、なおも飲み続けます。
「ガンバリマス・・か」
もっと遠くへ行って広く見て、もっと沢山の焚き火の夜を過ごしてほしいですな。
どうしても困った時には奥の手もありますぞ。ちょっとココでは書けないので、その時はまた訪ねて来たまえ。特別に伝授しよう。
カッコイイバイクに乗っているではないですか。身の危険が伴うので当然推奨はしませんけどな・・w
思いがけず手に入れた思惟のオモチャを懐かしいような気持ちで弄んでいると、諦めかけていた名月が黒々とした木々の梢から登ってきました。
満月の力は冴え冴えと凄まじく、サイトから離れるにもライトは必要ないほどに周囲を明るく照らします。
気温はグッと下がり始め、9月になったばかりと言うのに焚き火の暖かさが有難かったですな。
今夜はこのキャンプ場で一番早く飲み始め、一番遅くまで飲んでいたように思われます。
残念ながら、楽しい夜は明けてしまいました。早くも遠征最終日なのでありますな。
多くのサイトはまだ目覚めておらず、あの青年の焚き火台には綺麗に燃え尽きた灰が見えました。
手早く朝食と撤収を済ませ、「また来年」と親父さんに挨拶をしキャンプ場を後にしましたな。
訪れたことのあるメジャーな伊南川支流まで引き返し、以前の到達点より上流がどのようになっているのかを探索するつもりでありました。
様々なことを計算すると、お昼頃には帰路へつかねばなりません。移動時間もあるのであまり深追いせず、アッサリと状況把握に徹するつもりでありましたな。
しかしですね。
記憶を辿って舗装の途切れた林道を進んで行くうち、今日が日曜日であることを思い出しましたな。
目ぼしいスペースには悉く車が停まっているのであります。狭い道幅ですれ違うのに偉く神経を使う羽目になりましたな。
そんな中を走っていると「今日はもう竿を出さないでもイイかな?」などとヘタレ始めるのが不思議なものであります。
蚊に喰われつつではありますが、テントではしっかりと横になって休めました。
しかし昨日の釣りの疲労感はしぶとく身体の奥で燻っており、特に膝へのダメージは中々のモノのようでありました。
「ヒザ、昨日捻ったっけかなぁ?・・こんなに人がいるんじゃワシには釣れないよなぁ・・今日の分の昼飯も用意してないしなぁ。」
弱気になりながらも見覚えのある石橋を渡り、尚も惰性で走り続けていると、ちょっと良さげな支流があるのを発見しましたな。
支流の支流であります。
覗き込んでみると流れは二跨ぎもないくらいですが、木漏れ日の差し込む水色に何となく予感が働きます。
規模が小さすぎて、すぐ脇に銘川があるのにわざわざココを釣ろうと言う人は物好きだけでありましょうな。
辛うじて見つけたスペースに車を停め、一寸だけ浸透してみることにいたしました。
そうしましたらね、釣れるんですよコレが。
ただしサイズは大きくても20センチに足りず、わかりやすいポイントからポンポンと飛び出してきます。
「ん〜・・こりゃチョット違うなぁ。所謂タネ沢ってやつなのかな? だとしたら申し訳なくなっちゃうもんなぁ;;」
#4タックルではオーバー過ぎますし、何よりモヤモヤしながら釣っていても楽しくありません。
すぐに堰堤へ行き当たったので引き返しましたな。
明るく開けた伊南川の支流へ。
近頃特に感じておりますが、どの川も異なる個性を持っていて楽しいものでありますな。
構成要素としては森や植生や土砂や岩や水、時には人工物なども・・・
矮小化して捉えればとても単純に思えるのでありますが、それらどれもが一つとして同じでなく、地方、地域、季節毎の特性・・・個々の河川で全く違っています。
しかも同一河川中においての所々によっても、全く変わってきますな。
しかし何故か(自身が歩き回れる範囲においては)それらが一丸となって統一された雰囲気を醸し出す(感じさせる)に至っており、ひいてはその川独自の個性的な印象を与えられることになっているのであります。
まぁこんなことは当たり前のことなのかもしれませんし、一顧だに値しないことなのかもしれません。
しかしOSSANはこの辺をとてもオモシロく感じておるのであります。
それらを感じつつ行っている川歩きそのものが、我がフライフィッシングの楽しさを構成する重要なエレメントになっているような気がするのですな。
以前とは入渓ポイントが異なっておったわけでありますが、ここへ入った瞬間「あ、懐かしいな?」と感じたこともあって、そんなことを考えておりました。
いかんいかん。釣行記だかなんだか分からなくなってきましたなw(今更ですな;)
本命の支流では予想通りの厳しい結果でありました。
珍しく定位している良いサイズの魚を発見したりもしましたが、まるで相手にされず。我が渾身のフライ・ローテーションを避けられ続けました;;
際どいタイミングでフライを見に浮上してきて食い損なった魚は、同じフライには二度と出てこなかったですな・・・
そうこうする間にも、脇の林道を車が次々と通過していきます。鳴き続ける空きっ腹を麦茶で宥めつつ、つい熱くなって14時頃まで粘ってしまいましたな。
「全然見えないし気配もないけど、こういう底質のとこ好きだよねぇ〜・・?」
竿抜けとなりそうな特徴に乏しい瀬脇を、高速メンディングを駆使してネチッこく攻めた末に、ようやく出てきてくれたレギュラーサイズの岩魚。
神経質なアタックの割には良くロッドを絞ってくれましたな。
さぁ、もう良いでしょう。満足いたしました。これだけのプレッシャーと短い時間の中で、ちゃんと数尾は釣れてくれたのです。
やはりここも、良い川なのであります。
ともすると昨日のように「がくっ」と力の抜けそうになる足腰を騙し騙し、再び林道へ攀じ登るOSSANでありました。
釣り人は多すぎるにしても、会津の渓が好きでありますな。
まだ見ぬ渓が沢山あり、鳥や昆虫たちが豊富に飛び交い、夜にはちゃんと星があります。
観光地になりきれない家並みの様子や雪深いゆえの緑の瑞々しさ。丹精込められたであろう田畑の実りや、白く小さな蕎麦の花・・・
あまりに短いフライフィッシング&キャンプではありましたが、ワタクシの夏も終わりを迎えられました。
また来年、行くことができればと願っておりますな。
コメント
會津に来ていただきありがとうございました。
南会津はここから遠いので、立川市在住の時にだけ鱒沢川に行きましたが。
2回分を続けて拝見しました。
落ち着くようなおだやかな気分になります。
あぁ ワタシの釣り欲の因業さを、強欲さを、恥じるようであります。
という舌の根も乾かぬうちに、来週の裏磐梯への釣行を打ち合わせし、大物岩魚をねらう姑息で矮小な男根主です。
FFfreakさま、こんばんわ。
きっと赴くほどに、会津も磐梯も好きになっていくのでしょうね。
福島へ限らずとも、FFを通して各地のフイールドの核の一つへ旅できることが、とても幸せなことなのだと実感しております。
「釣れなくとも良いから」などとはとても言えませんが、このような釣行が長く続けられることを密かに祈りつつ、今後も方々へ出張って参るつもりです。
二の腕のような大物岩魚は、是非ワタクシの分も残しておいてくださいませ。