今年はですね、「8月は釣りをしない」という個人的決め事を反故にして、最低でも3日間は必要であろうフィールドを探索する計画を立てていたのであります。
しかし生産性や合理性を一片たりとも感じられない仕事に、その日程は潰されてしまったのですな。
そしてとうとう9月となってしまいました。
精神的限界も近づいている事を感じたワタクシは、辛うじて確保した連休を利用し、南会津へと向かうことにしたのであります。
日並びからして、丸一日釣りに当てられるのは土曜日でありました。
名だたる人気河川へ入ってしまうと、他の釣り人とのバッティングやプレッシャーとも戦わねばならず、釣果も期待できなくなってしまうでしょう。
昨年訪れ気に入った渓で、マッタリとした釣りをしたいと考えておりました。
イャそれにしても・・・仮眠をとったとはいえ、夜勤明けでの4時間ドライブは堪えましたナ・・・
幾度か高速道の走行中に睡魔に襲われてしまいましたよ。
シーズンも終盤でかつ、「今年は遊びに来ないのか?」と呼ばれている気がしなかったら、こんなスケジュールで出かけなかったと思います。
「こんちわ~ 昨日電話したOSSANであります」
「やぁ、どうもどうも。今年は遅かったですかね。また釣りですか?」
「あれ、覚えてたんですか? いや〜どうにも疲れてしまっているので、教えて頂いた川だけ釣ろうと思って来たんです」
「それはそれは。どうぞゆっくりしてってください。この辺りのお祭りで配られたお赤飯がありますから、良かったらどうぞ」
キャンプ場の親父さんは相変わらず物腰柔らかく、食べ物までくれるのでやはり良い人です。
これまでのところ、親父さん以外のスタッフさんやご家族の姿を見たことはありませんな。
広大なキャンプ場を、お一人で管理されているのでしょうか?
それにしてはトイレ等の設備や芝の手入れも行き届いており、昨年には見なかった造成までされているのです。
不躾な質問が頭に浮かんできましたが、今はとりあえずキャンプ設営をしなければなりません。
小雨がパラついておりましたな。
この日はグループキャンプの前乗りの方が一名と、OSSANのみがキャンプ場の利用者でありました。
翌日も移動することと、二晩を過ごすのでテントを張ることにしましたな。タープの下になるので、手抜きしてフライシートは被せず。
仮の生活環境が整う頃には、山間のサイトは既に薄暗くなり始めておりました。
体調をひどく崩した時くらいしか控えることのないアルコールを、もう48時間ほど摂取しておりません。
気分がリセットされず、二日前からズ〜っと活動を続けている感覚です。もうヘトヘトなのでありますな。
腹も減っていたので、早々に酒盛りへと突入してしまったのでありました。
前回木曽でのキャンプ&フィッシングでは痛い目に遭いましたので、今夜は抜かりありません。
- 枝豆
- カツオの刺身
- ピリ辛味付け豚肉焼き
- 味噌ラーメン
豪華居酒屋的フルコース料理であります!
完膚なきまでに飲んでしまっても、改めて買い出しに行かずに済むほどのビールも準備して来ましたな。
キリッと冷えたビールの喉越しに唸り続け、どんどん楽しくなっていってしまうのであります。
細君や娘に対し「申し訳ないかな?」と感じましたが、ほんの一瞬のことでありましたな。
猫も杓子もと節操のないソロキャンプブームも、そろそろ下火となって来ましたかな?
ワタクシにとっては渓流でのフライフィッシング同様、現代的でもおシャレでもないこのひと時は大事な時間なのであります。
否応なく中断せざるを得ない時代があったとは言え、中学生の頃からこんなことを続けてきましたな。
人生の折り返しを過ぎた自身に去来する様々を、じっくりと眺めて分析してみたり、気がつかなかいふりをしてみたり。
このシチュエーションで何事かを一大決心してみたりすればカッコいいのかも知れませんが、大体が酔っぱらった勢いなだけなので、翌朝にはムダとなる事がほとんどであることは経験則でありますw
目の前を横切っていく閻魔コオロギの逞しい背中や緻密な後肢の動きを眺めたり、理想的な焚火の炎を調整することに腐心している方が、よほど気持ちをほぐしてくれると言うものであります。
お決まりの酔っぱらいツイートを連発していると、時がたつのが予想以上に早いことに気が付いてしまいました。
まだ来たばかりだと言うのに、焦るような、残念なような、寂しいような気持になってしまいましたな。
どうしてテントへ潜り込んだかは覚えておりませんが、タープに当たる雨音がいつの間にか止んでおったことだけは記憶に残っております。
さて、翌朝であります。
食い物の話ばかりでどうかと思いますが、今回キャンプの朝食でどうしても食べたいものがありました。
皆さんは「人生で最後の食事は何が食べたいか?」という問いに対し、答えをお持ちでしょうかな?
色々な条件付け等もあるでしょうが、現在のワタクシが思い描くのは圧倒的に
炊き立てご飯と納豆&生卵
であります。
普段よりこの組み合わせを、時間の取れない時の軽い一食と位置付けて長いこと過ごしてきましたが、凡そ飽きると言うことがありません。
そして体調を整えるのに役立っている実感があるといいますか、しばらくこの組み合わせを食べないと身体の調子が狂ってくる・・気がしているのですな。
やってはいけないこともわかりました。これら以外におかずを加えてはならないと言うことです。
簡素な具材の味噌汁くらいであれば許容されるのですが、肉や魚も同時に食するならば、この組み合わせと作法の織りなす繊細かつ絶妙なる滋味は諦めねばなりません。
味のバランスと言いますか印象と言いますか、味わいの妙が失われてしまうと感じておるのでありますな。
納豆を攪拌したのち生卵を一緒に混ぜるのでありますが、それをご飯の上に乱暴にブッかけてしまってもイケマセン。
あくまでもご飯&納豆+卵として食すのであって、三位を一体化させるのは己の口腔内でなければならないのであります。
それぞれの主張するところを素直に受け止め味わい、奏でられるハーモニーを楽しみ、その微かな余韻に侘び寂びの境地を見るのであります。
以上の作法を遵守した上で、米、納豆、卵それぞれに特徴や銘柄への拘り等を追求していっても良いでしょう。
え〜とですね・・・
我がソロキャンプでこの朝食を実現するには、様々なハードルが有るのでありましたな。
先ず食事が目的のキャンプではないので、ご飯を炊くことは諦めねばなりません。
出来上がってから食べ終えるまではあっという間であります。ご飯が炊き上がるまでにかかる時間や手間の釣り合いが取れません。
できるだけ食器類も洗いたくないのです。今回はパックで売られているご飯の湯煎で妥協することにしましたな。
道中で納豆や生卵を購入してしまうと食べきれないので、家の冷蔵庫から一個ずつ失敬してきました。
それらが在庫されているタイミングを計らねばなりませんし、卵を割らないよう工夫も必要となりますな(登山用の卵ケースを使用しました)。
さらに生モノですので、クーラーバッグなどで保冷しておく必要があります。短時間でも保冷剤を切らしてしまうと、納豆の風味が覿面に落ちてしまうのであります。
以上のハードルをクリアしたのちに得られるものは、「いつも通りのメシ」を摂ったことによるコンディション向上と湧き上がるパワー!!
・・なのでありました。
「たったそれだけのこと」でありますが、小さな目的を達成する事ができて満足いたしました。
やはり自分はどこかオカシイのだろうなぁ・・と思いつつ、LF川へと向かいましたな。
オフシーズン中に、この川のことを幾度も思い出しておりました。
人の痕跡が薄い割にセンシティブなフライへの出方が印象的な魚たち。厳しすぎない渓相もちょうど良い塩梅なのであります。
大きめのフライを使いたいがために起用した#4のタックルを、努めてゆっくりと、慎重にセッティングします。
1日に一度しか経験できない「一尾目の魚」をバラしたくないのですな。
仰ぎ見る木々の葉は未だ青々としているように見えますが、しっかりと秋の気配も混じっているようです。
もうあの「ムワッ」とくる大気の密度や生命たちの勢いは無く、目覚めたばかりの流れに沿って涼風が吹き降りてくるのみであります。
鳥たちの声も聴こえて来ますが、どことなく祭りの露店の店仕舞いを見るような、寂しい雰囲気を感じるのですな。
流れのあちこちへ注意深く視線を走らせつつ遡り始めましたが、ライズを見ることはありませんでした。
それぞれ初の組み合わせとなるタックル達の相性を吟味しつつ、一つのポイントを通常の3倍以上の時間を費やして慎重に探っていきました。
今日はそれが許されることがわかっているからであります。
一度経験しているフィールドなので、なんとなく退渓点までのタイムテーブルが頭に浮かんで来るのでありますな。
初めてのフィールドへ突撃するのもヒリヒリとして刺激的ですが、余裕のある気持ちの中で、色々と試しながら釣っていくのもまたオツなものですね〜・・・
等と考えていると、瀬の肩へ差し掛かっていたEHカディスが横っ飛びに掻っ攫われましたな!
ファーストフィッシュは可愛いヤマメでありました。
来シーズンには大きく育って、ワタクシの投じるフライに再び食いついてくれるでありましょうか?
それともマジマジとフライを観察された挙句、憎らしくもスルーされてしまうのでしょうかな?
たまりませんな〜・・・そのどちらでも良いですな!
あと一月たらず。シーズンの終了を無事迎えてくれることを願いつつ、そっと流れに返しました。
「呼んだからには冷たくもできんだろう・・」と言うところでしょうか?
溪はその後も飽き始めるのを見計らったようなタイミングで、ポツリポツリとヤマメを恵んでくれましたな。
前回訪れた時は岩魚たちがメインだった記憶がありますが、全く釣れないので不思議でありました。
季節的な要因でも有るのでしょうか・・・?
ゆっくりと、ゆっくりと。
この季節と時間を惜しみ惜しみ、しかし要所では熊鈴をバリバリと振り鳴らしながら、さらに遡っていきましたな。
行程の2/3くらいの位置でしょうか。退渓ポイントへ到達すると、時刻は12時を回ったところでありました。
さらに先へ進むのですが、ここまでは川通しで引き返してくる必要があります。
やはり「いつも通りのメシ」の消化は良好なようで、昼食休憩としましたな。
目の前のポイントを敢えて打たずに、パンを頬張りながら流れを眺めておりました。
すると十数分が経った頃、尺に絡むような魚の影が浮き沈みし始めたのであります。
尚も動かずに観察していると、その魚の行動パターンは自身の記憶には無いような気がしましたな。
比較的広い範囲を動き回り、姿を現したり隠したりしているのですが、何かの流下物を捕食しているようには見えないのであります。
そのくせ何かを探しているような、何かを警戒しているような・・・? 縄張りを守っているような行動にも見えるのですが、追い払うべき対象はいないように見えます。
わかりませんな・・・
OSSANはフライフィッシングを通じてこのような素晴らしいフィールドへ浸透し、渓魚との邂逅を果たさんとしているわけです。
しかし山女魚も岩魚も、対象魚のことを何も知りません。季節が進んで禁漁となった後、彼らはココでどのように過ごしていくのでありましょうか。
何を喜び、何に倦み、どのように生き、どのように死んでいくのでしょうか。
あの魚はこの瞬間、何を思ってあのようなエネルギーを燃やしているのでしょうか。
身体のシナリ方からして、良いサイズのイワナであったと思います。
食事を終えても、ワタクシはフライを投じませんでした。
相手にされない確信があったからでありますな。
親父さんの話では、ここ最近に大水が出たことはないと言うことでありましたな。
しかし一年ぶりに歩く溪には記憶にない倒木がそこここにあり、あったはずのポイントがなくなっていたりと、かなり変わっている印象でありました。
午後も深まって、梢からこぼれ落ちる陽光が岩の苔や水面を印象的に彩りはじめました。
ほぼひと月、どこへも出かけられず腐りきった気持ちのデスクワーク。異常な暑熱のおかげでロードワークもままなりませんでしたな。
萎えに萎えた足腰はだんだんと言うことを聞かなくなり、膝下を前方へ蹴り出すことさえおぼつかなくなっておりました。
流れの中で踏ん張ることができず、浮石に乗ってしまった時などは咄嗟のリカバリー動作が出来ないのであります。
幾度もヨタヨタ、ヘタヘタと流れの中で尻もちをついてしまう有様でありましたな。
「う〜む・・・コレはいよいよもってどげんかせんといかんズラ・・・」
記憶の片隅にある方言を混ぜて使ってみたって、何がどうなる訳でもないんですがネ。
疲れてくると独り言を言ってみたくなる年頃なのであります。
その時間も伸び伸びとなりつつある幾度めかの休憩中。
微かに懐かしい、「あの匂い」が流れて来ましたな。
辺りを見回してみると、土が侵食されたために剥き出した木の根が張り出している、魚にとっていかにも隠れ家として魅力的であろうポイントがあります。
流速も程々で水中に岩もあり、木の根に引っ掛けずに際をトレースできれば「いただき!」というシチュエーションでありますな。
ティペットを3フィートほど継ぎ足し、一撃必殺の気合を込めて、正直ほとんど見えないグレーのCDCカディス#14へ結び変えます。
痛みの出てきた膝を庇いつつ、姿勢を低くしてにじり寄ります。
変にリキんでストラクチャーに引っ掛けないよう、ドリフトに十分なティペットの弛みができるよう、メジャーリングとラインの軌跡が正確となるように。
フライを流すべきラインは見えています。消えながら木の根の下に吸い込まれている、あのバブルレーンです。
今こそ、スクールで見たあのプレゼンテーションを再現する時であります!!
奮い立たせた極限の集中力と、持ち得る全ての技術を込めてキャストしたつもりの我が分身は、稀に見る理想的ドリフトを見せました。
流れに対して早くなく、遅すぎもせず。
流れるところでは流れ、巻かれるところでは巻かれ。
流れの生み出す細かな振動を拾って、何とも言えない生命感を纏ったCDCカディスが木の根の下を漂います。
パシィッ!!
光る飛沫と水音が起こります。時が大きく引き伸ばされます。
「出る」と思って行うフッキングは、滅多なことでは失敗しないのですな。
フライと、ラインと、ロッドとを介し、「今日一番良い魚」と自身が繋がりました。
その小さな衝撃は全身を巡り、この8月中しぶとく凝っていた澱が、一瞬で気体となって蒸散します。
際どくせまいスポット中を疾駆する魚体はギラリギラリと明滅し、#4ロッドを「コレならどうだ!?」と引き絞ります。
キリキリとした岩や木の根の手応えも感じ続ける渓魚とのファイトは、どれほど充実した瞬間であるでしょう。
厳つい顔つきの山女魚は、ほんのりと秋色を帯びつつあるように見えました。
「ああ、よかった。ありがとな」
流れへ戻してやると少しの間、立ち込んだシューズへ寄り添うように、体力の回復を待つようでありました。
シューズが作り出す緩流を無くしてしまわないよう慎重に体を捻り、そっと水中の美しい背中を撫でてみます。
渓魚たちはこれほどまでにエネルギーを爆発させて、アングラーとの闘いに臨んでいるのですな。
ゆらゆらと頼りなかった魚体に一瞬の電気が通じたかと思うと、目にも止まらぬ影となって深みへ駆け込んでゆきました。
なけなしの、身体中からかき集めてみても、ほんの少ししか残っていなかった骸炭を焚き付けてやって来たOSSANの今日は報われましたな。
渓が呼びつけて会わせたかったのは、あの魚だったのだと断言できます。
立ち上がって上流を眺めると、景色はさらに柔らかく、色温度は下がっているように感じられました。
残りの行程を少しだけ急ぐことにしましたな。
コメント
以前から密かに拝読させていただいておりました。
今回の釣行レポに何故だか(失礼!)というか、共感する所が多々あり思わずコメントしてしまいました。これからも楽しい釣行記をお願いいたします。
TroutWater 様、初めまして!
このような独りよがりの極みのようなブログに対し、何よりの励みです。
有難うございます。
近頃は更新もままならなくなっておりますが、今後ともよろしくお願いいたします。