梅雨明け直後の耐え難い熱と湿気は、炙られるばかりの、光そのものに変わりました。
罪のない自転車を操る小学生たちは、何の心配もないまま肌を焦がし続け、眩しさで満ちた無音の中へ走り去っていきます。
つなぎ辿る日影が、渓風を含む木立のそれであったらどんなに救われるでしょう。
苦しいだけの熱い息をつきながら、今日も街に居ります。
過日。
やっとニューロッドを試すチャンスが来ましたな。
夜勤による身体・精神的疲労からうまく回復することさえ出来れば、わりと体調は良好であります。
行き帰りの約2時間ずつを差し引いて、8時間ほど実釣時間の確保できる「うらたんざわ渓流釣り場」は、OSSANにとって丁度良いフィールドなのですな。
都心へ向かう渋滞が始まりつつある首都高の一部から抜けてしまえば、当日の作戦を頭の中で描くうちに相模湖ICを出られます。
その後は集落内の狭路や、落石注意のブラインドコーナーの続く林道となるので気が抜けなくなりますが・・・。
平日にしては結構な人数が身支度を整えている脇で、いつにも増して念入りにタックルをセットします。
テーマは当然、新たに入手したScott GS・7’7”#3の感触を確かめることであります。
そして実は、新たなリールも手に入れておったのでありました。
「欲しかったリールが手に入らない!」とTwitterで嘆いていた所、フォロワーさんからドンピシャのリールを譲って頂いたのでありますな。
HATCHという米国メーカーの、1Plusというモデルであります。
ディスク・ドラグのリールでシリーズ中最小のキャパシティですが、日本の渓流における山女魚や岩魚相手に丁度よいサイズと思います。
確かフライフィッシングを始めた数年前、このHATCHというリールをショップで眺めていたはずでした。
その頃はその値札的もデザインにも、まったく興味を唆られなかったことを覚えております。
それが今や、人様から譲って頂いてまで手に入れたい等と思うようになったのですから、やはりワタクシの中で何かが決定的に変化してきてしまったのでありましょう。
それは一体、良いことなのか、そうでないのか・・・。
しかし何にしても、「初めての経験」というものは良いものでありますな。
初めて見る風景、訪れる場所、行うこと、感じること。そして初めて使ってみるタックル・・・不安も同時に内包するワクワク感がたまりません。
いつものうらたんが、新鮮な景色にも見えてくるのですから面白いものです。
「明日にも梅雨があけるかな?」というタイミングでの釣行でありました。周囲の山々に靄が立ち込め、今にも降り出しそうです。
ヤマメクラシック・エリアの入り口で釣っていた、小学生を含む親子三人に声をかけ、上流のフラットで反応を見ます。
これまでの経験で、このポイントの魚がうわずっている日は良い釣りができる事が多いのですな。
「いいなぁ。親子で釣りなんて羨ましいなぁ・・・。」
新中学生となった我が娘が、渋々でも父親に付き合ってくれる時は、もう僅かしか残されていないのでしょうな。
今年の秋か、もしくは来年の夏前。どうにか一度は一緒に出かけたいと考えておりますが、さて・・・。
夜の明けたばかりの、森と川から流れてくる匂いや音、湿度や色彩。それらの濃淡を全身で楽しみながら、手の中のNEWロッドの感触を確かめます。
カムパネラ・クラシックライトと比較して、少々釣りのテンポが上がるようですな。
それはラインスピードが早まったせいなのか、フライのアキュラシーが向上しているせいなのか?
ミューシリンを施したばかりの、前後を巻き返してきた#3ラインは面白いようにスルスルと距離を伸ばし、「ああ、ちょっと足りなかったな・・」と言うアプローチが劇的に減っています。
かと言ってリキんでキャストしている訳でもないのですから、これはやはりロッドのアクション&パワー、レングスが変わったことによる複合効果なのでありましょう。
不思議な気持ち良さのあるロッドであります。
全体のしなやかな印象の中に、とても細く強い芯が一本通っている感覚があります。
そしてうまく言えませんが、見た目の長さに受ける印象より、振り抜いた後のロッドからの「お返し」が少ない印象です。
7’3”⇒7’7”とレングスは伸びましたが、レディントンZERO⇒HATCH1Plusとリールが少々の重量増となったこともあり、意外に思うほど違和感を感じません。
通常、5X・12ftリーダーに6Xティペットを3〜6ft継ぐ事がほとんどでありますが、ライントラブルが少ない気がします。
伸びたレングス以上にラインシステムの扱いが楽に感じます。
フライを嫌う魚の様子がありありと見えてしまいますが、心に焦りは微塵も湧いてきませんな。
今日の目的は魚と遊ぶことだけではないのであります。
件の家族連れは「パラダイスだけやりに行きますから、ゆっくり上がってきてください〜」と、だいぶ前に抜き返していきましたな。
姿の見えぬ大物にラインブレイクされたことのある大淵を、何事もなく通過します。
再戦のチャンスはいつ訪れるのでありましょうか?
今日でないことは確かなようであります。
今シーズンの梅雨らしい降雨に恵まれた流れは、濁りもなく水量も理想的でありました。
渡り返した流れの左岸に、水中からせり上がる岩盤が続くポイントの取っ掛かり。渡渉中のアップクロスで#16ディアヘア・カディスを浮かべます。
ライン・スラックの入りすぎることもなく、好みの配置でティペットとフライの位置関係が決まります。
「うまく行ったと思うキャストに限って出ないもんなんだよなw」
等と自虐的な独り言をブツブツ言い始めたまさにその時、控えめな飛沫が上がります。
「ぅふおぅ!?」
つい、おかしな掛け声で合わせてしまいましたな。
しっかりとフッキングが決まった時に特有の、「ビィーンン・・!」という緊張感のある手応えが伝わってきます。
この感覚があった時は、嫌らしいストラクチャーに絡まれラインブレイクされた時以外に、魚をキャッチできなかった記憶はありません。
開けたポイントで、こすられるような沈み石もありません。
ニューロッドに伝わる、ファーストフィッシュの手応えを心ゆくまで堪能するだけ・・・と言う条件が揃いましたな。
モグモグとその場で首を振り、広く走らないファイトの仕方は、その魚が山女魚でないことを伝えてきます。
ベンドカーブは比較的浅いですが、キャストの際に感じていたグリップ内〜バット部にかけてしなる印象は、魚の負荷に対してはそれほど強く出ないようです。
ネットイン間際の、川の流れに乗ってのダッシュに対してもロッドパワーに余裕を感じましたな。
虹かと思っておりましたら尺ピッタリの岩魚でありました!
ニューロッド、ニューリールでの本日ファーストフィッシュとしては、出来すぎというものであります。
ロッドの感触を確かめたいのと、途中で貴重な一尾と気付いて慎重すぎるやり取りをしたせいで、随分と弱らせてしまいました。
支えた魚体が傾いでしまうほど弱らせてしまうことは滅多にないのですが、少々時間をかけすぎたようであります。
片方の手で上流へ顔が向くよう魚体下部を支え、もう片方の手で水流を頭部に向けて扇いでやります。
自然な流れに任せるより、多くの酸素が鰓へ届くようにとの処置です。言ってみれば魚に対する人工呼吸なのであります。
昔、ブラック・バスに対して良くやっていたなぁ・・・と思い出しながら、数分間つづけます。
夏前とは言え、水が冷たいです。
流れの中で、きっと今日一番となるはずの岩魚が徐々に力を取り戻していくのを感じます。
鰭のそよぎに一瞬ピリッとした電流が走った直後、飛沫を浴びせながら去っていきましたな。
「良かった。」
まだ11時でしたが、すっかり満足してしまったのでありました。
いつものようにパラダイスまで。程々のサイズの魚たちに、飽きない程度に遊んでもらいます。
いつもの場所で、いつものペースで身体も疲れ、お腹も空いたのでいつものコンビニ朝食休憩です。
家族連れが、流れを渡って引き返してきました。少年の身長ではこの水量の渡渉は少々骨の折れることでしょう。
「どうでした?」
「マアマアでした。そちらは?」
「(鼻の穴を膨らませ)尺岩魚が出ました。」
「それはすごい!」
OSSANからしたら、まったく良い思いをしたことのない「パラダイス」で「マアマア」の釣果ということも一寸羨ましい・・・と思ったのは内緒であります。
奥方の「マッタクしょうが無いなぁ・・・」という様子と、活き活きした少年の表情の対比が面白いものです。
「おんなじだね!」
フライフィッシング・タックルの事を指しているのですな。
「釣れた?」
「うん。マアマアw」
「そっか、いいなぁ。気をつけてね。」
ファミリーと入れ替わりとなったポイントでキャストを続けながら、娘と釣りに行くにはどんな障害をクリアしなければならないか・・・考え続けたワタクシなのでありました。
受付まで引き返し、火を借りに行きます。ライターがガス欠で、ずっと悲しい思いを堪えていたのであります。
思い通りのアプローチで、胸のすくヒットを楽しんでも、お気に入りの場所で小腹を満たしても、その後の「虚無の5分間」を楽しめないのではどうも残念なのでありますな。
オヤッさんはどこかから引っ張り出した、液体ガスが真っ黒に変色しているライターをくれたので大変助かりました。
いつしか降り始めた雨が強くなり、昼食の為のロング・ブレークであります。
オヤッさんが珍しくプレハブから出てきたのでテーブルを囲み、二人して雨の中へ漂っていく紫煙を目で追いつつ雑談します。
ガーミンのライフロガー(SMART腕時計ですな。心拍が計れます。)に興味を示したオヤッさんは様々な質問をし、そのうち自転車レースの話となりました。
うらたんからほど近い、道志みちで行われた2020オリンピックのロードレース・テストイベント走行を見学に行ったそうで、興味深かったそうであります。
それはそうでしょうなぁ・・・。
改めて調べてみますと、東京の武蔵野の森公園〜山中湖を通り、富士山を1451メーターまで登って富士スピードウェイでゴール。
その途中にも山伏・籠坂・三国など、OSSANなら血反吐吐いて倒れ込む事必定な峠が3つもあります。
距離234㌔、獲得標高4865米という、
「いったい何が嬉しいんです!?」
というコースであります。
これは過去、非常に厳しいと言われたグランツールの山岳ステージの数々に匹敵しますな。
それが一発勝負なわけであります。クライムもダウンヒルも強い選手でないと勝てないコースでしょうな・・・。
三日間くらいに分割してくれればワタクシでもなんとか走れるでしょうが、ここをトンデモないスピードで走りきってしまう、ヤバい人たちが目の前を集団で走り抜けてゆくのです。
プレとは言えそんなモノを間近に見たら、それはショックも大きかったでありましょう。
怪しい知識を錆びついた記憶から掘り起こしつつ様々な質問に答えておりましたが、釣りをしに来て自転車の話をしている・・・。
一寸可笑しくなってしまいましたなw
雨の弱まるのを待ち、目の前のミックスエリアを釣ります。
少々疲れてきて、キャスティング動作に雑なところが出始めると、とたんにラインが言うことを聞いてくれなくなりましたな。
それはきっと当たり前のことなのでしょうが、クラシックライトでは身体がヘタってキャスト動作がデタラメになっても、ロッドのアクションがそれを補ってくれる感覚があったのであります。
しかしこのスコットGSは、しっかりしたキャスティングをこなした時にこそ、その真髄を見せてくれる竿であるように感じました。
いやはや、己のスキルの低さに、まったく釣り合っていない竿であると言うことなのでしょうなぁ・・・;;
ゆっくり、使いこなして参ります。
雨降りですので、暗くなるのが早かったですな。1プールに一人はアングラーが入っている状況。
サイズの大きな魚は、一頃より随分増えたと感じるルアー・フィッシャーメン達に分があるようですな。
見ていると制限いっぱいにキープしていく方も多いようです。
最近は最下流のクラシックへ行くことはなくなり、初期の頃のように難しい釣り場と感じる事もなくなりましたな。
うらたんは良いエリア。
Scott GSも、HATCHリールも大変良いものでありました。
いつかどこかで、ほれぼれするような渓魚がこのタックルと写真に収まることでありましょう。
それだけは確実である。
そう信じることで何とか日々をうっちゃっている、今は葉月も終わりであります。