ちょうど今から2年前。
非常に悔しい思いをした、鬼怒川の支流へ行く事にしましたな。
当時はフロータント類を全て忘れてきたり、買ったばかりのフライ・ピットを紛失したりと、到底ベストな状態でない勝負を強いられたのでありました。
まぁ自分が迂闊なだけなのでありますが、同時期に再訪し「借りを返す」つもりでありましたな。
この辺りのフィールドが良いところは、自宅から車で2時間と少し。とても気分の良い日光宇都宮道路を走ってアプローチできる事であります。
日常通りに5時頃の起床〜出発。
いくつかの峠を越えながら「良い加減タイヤも交換しなきゃだなぁ」などと考えつつ、途中休憩を挟んでも8時過ぎには現地へ立つ事ができました。
遊漁券の購入も前日にオンライン手配で無駄がありません。これは日帰りするしかないスケジュールで、非常に助かるポイントなのであります。
身支度を整え、新緑の輝く森の空気を深呼吸すると、いつもより心拍が早まっていることに気が付きます。
多少の寝不足、日頃の高血圧がそうさせるだけなのはわかっていましたが、
「フッ・・俺もまだ若いなw」
心の中で独り言を呟いておきました。
2年前の記憶と同様流れには水が少なく見え、もしかするとこの川はこれが常態なのではと感じました。
辺りには数種のカゲロウが飛び交い、中にはモンカゲロウらしき大型のものも混じっています。
新たに導入するラインとリーダーの相性を探りながら釣り上がり、過去大物を逃した釜を何事もなく過ぎてしまいましたな。
そんなことは無いのだとわかっていても、やはり気持ちの中で期待していたのです。
途端にベストやウェーダーの重さが気になるようになり、岩を乗り越えるのも億劫に感じ始めておりました。
そして、これが良くありませんでしたな。
流れに沿った形で存在した倒木を、橋のようにして渡ろうとしたのであります。
何のこともないと思っていたのに、その倒木上でバランスを崩し足を滑らせてしまいました。
「若いなw」ではありません。 仰向けで背中から落水してしまいましたな・・・;;
水中から眺めた水面はギラギラと眩しく、細かな無数の泡がすごい勢いで目の前を過ぎていきました。
上半身から浸水してくる水の冷たさに我を取り戻すと、声にならない唸り声を上げつつ無理やり体勢を立て直しましたな。
何でこんなことになってしまったのか・・釣り始めて間もないというのに、持ち物、身に付けるもの全てがびしょ濡れとなってしまいました。
身体の痛みでしばらく動けなくなりましたが、流されつつあるキャップには手を伸ばすことが出来ました。
度入りの偏光グラスが飛ばされなかったのは不幸中の幸いでありましたな。もし外れてしまっていたら、見つけることが出来なくなっていたと思います。
「うわ〜何でだよ〜どうすんだよコレぇ〜・・うあ〜ぁあぁ〜・・・」
自分が悪いのです。
全身から水を滴らせながら大きな独り言を続けてみたって、どうにかなるモノでもありません。
ようやくゆっくりと動けるようになって、投げ出したロッドを拾い上げに行き、上半身の衣服を全て剥ぎ取り水を絞ります。
ウェーダーも腰下までずり下ろし、上半身裸で川の中で唸っているのです。完全に不審者です。
これから気温は上がってくるでしょうし、ロードワーク用の長袖の機能性アンダーウェアを着てきたので、なんとか釣りは続けられそうです。
耳の中や髪の毛の中まで川砂が入り込んでいたので、キャップの洗濯ついでに川の中で頭も洗ってやりましたな。
イヤ、それにしても・・・
一釣行で一度はドボンしている歴戦のOSSANとはいえ、今回は完全無欠の前身濡れ鼠となってしまいました。
これで気温が低かったり、アンダーウェアもコットンだったりしたら、せっかくやってきた釣行の中断を余儀なくされていたのですな。
落ちた場所にある程度の水深があり、たまたま岩などが無かったのは幸運以外の何者でもありません。
下手をして頭を打ったりなんぞしていたら・・・考えるだけで恐ろしいことであります。
またもや増えてしまった今後の課題を思い、ご先祖様に感謝しつつ、気を取り直して再び釣り上がり始めたのでありました・・・
「もしかして・・・ワシとこの川は相性が悪いのではないか?」
魚影が無いわけではありませんでした。黒い小さな影がそこらじゅうで走ります。
しかしそのディスタンスは、自分が経験してきたどのフィールドより遠いことを感じておりました。
少しでも不用意にこちらの姿を晒そうものなら、はるか彼方でも魚たちは遁走するのです。
有名フィールドとは言え、すごいプレッシャーなのですな。平日だからと油断しておりました・・・
足元や背後の小枝などに注意を払いつつ、利用できるブラインドは全て利用するつもりで、限界まで距離を取ったアプローチに切り替えます。
ティペットの太さも一段落としたりとストレスの溜まる展開ですが、答えは出ましたな。
グリズリー・パラシュート#16を疑い深く吸い込んで、素晴らしいスピードの抵抗を魅せてくれたのは、手のひらサイズのヤマメでありました。
この大きさでミディアム・ファストの#3ロッドをギュンギュン絞り込んでくれるのですから、やはりヤマメは特別なターゲットだと感じます。
脇の林道を、釣り人のものらしき車やツーリングのバイクが通る頻度が上がってきましたな。
時折起こるライズは小さなスプラッシュで、魚の小ささやプレッシャーの高さを再認識させるようであります。
それらのいくつかをモノにして遡行を続けると、2年前に脱渓地点とした滝に到着してしまいました。
ゆっくりとおにぎりを食べて休憩しているうち、その淵で生命感が現れることはありませんでしたな。
落水時に姿勢を保とうと瞬間的な馬鹿力を発揮してしまった左腕は、未だにその力を取り戻せておりませんでした。
挨拶程度のキャストを試みた後、この先を見にいくことにして林道へ這い上がりましたな。
適当な場所から再び降り立つと、渓はますます水を減らし、巨岩の折り重なる源流の雰囲気を濃くしていきました。
春に輝いていた渓相は、日の傾きと共に陰鬱な表情へと変わりましたな。尚も這い上がろうとするOSSANの身体を押し戻そうとするようです。
岩を乗り越えるたび小さくなっていく岩魚のサイズと、未だ不快に纏わりつくシャツ。
車まで引き返す分を差し引いた残り時間が2時間を切った頃、ちょっとした溜まりで浮いている、恐らく今日一番のサイズの岩魚を見つけましたな。
ソロソロと後退りをし、岩と岩の隙間から覗いていると、その岩魚は水面スレスレを舞っているクリーム色のカゲロウに興味を示しておりました。
さらに数歩後退りして、淵へは背をむけ、腰を下ろして一服つけることにしましたな。
オフシーズンに巻き散らしたフライが詰まっているボックスと、辺りに舞うメイフライたちとを交互に眺めます。
つまみ上げたのは、数年前に巻いていたスタンダードフライ。ライトケイヒルでありました。
それまでロッド2本分に少々足りないくらいにしていたシステムを、ティペットを一段太く、短く結び直して、2本目の煙草を吸いつけました。
結果がどうあれ、あの魚との勝負を最後に引き返すことを決めるのに、それだけの時間が必要だったのであります。
「あの魚」はもういませんでした。
服は生乾きのままです。這い上がるべき林道が確認できる場所です。
腕には力が入らず、もう身体を支えられません。腰も膝も痛み、何だかもうボロボロなのであります。
短いティペットでいくらかのドラグフリーを稼ぐことに成功したライトケイヒルを、その岩魚は疑いなく口にしたように見えましたな。
0.4秒の間をおいてアワセを入れると、ズッシリとした重さが手元から脳幹へと伝わり、全身に電流を走らせました!
乏しい深場や岩の影へ幾度も駆け込もうと抵抗を繰り返した岩魚も、2年前と比べて数段も上達した(はずのw)ワタクシの技術にはなす術もなく、ネットへと導かれたのでありました。
良かったですな。
恐らくあの魚より小さかっただろうとは言え、2年越しの宿題を提出することができた・・・そう言って差し支えのない釣果であると感じました。
水中の暗がりへ一目散に駆け込んでいくあの後ろ姿を、再び見ることはできるのでありましょうか。
またこの渓へ足を運ぶ時、今度は何事もなく無事にこれを上回る魚と遊ぶことが叶うでしょうか。
そうだと良いですな。
今日一日釣り上がってきた渓を傍目に、
「そういえば彼処にも借りを返しに行かねばならんな・・・」
そんなことをブツブツと。
思ったより、まだ明るさの残る林道を引き返したのでありました。
コメント
いいですねー。
終わり良ければ総て良しーですよ。
爆釣後も先週も定点観測にいきました。
はい、ことわざ通り、「柳の下に・・」
最後が太った岩魚24cmくらいを釣ったら、ラインホールド中に摩擦で中指腹に切り傷できました。
引きが強くて思わず大物かと。ハックルストークボディを薄黄色、ソラックス部はオリーブにしてみました。
FFfreak 様こんばんわ。
雪代の収まり始めた地域では、正にこれからがベストシーズンですね!
私もそろそろ車中泊&FFをしに行きたい季節ですが、なかなか難しいものです。
未だアチコチが痛みますが、次の釣行のため身体中をマッサージする日々です^^;
こんにちは。
私の拙い経験では有りますが、大型の付き場は毎年同じなんですね。
人が入れ替わり立ち替わりするポイントは、どうしても魚がお留守であったり、浮いてこなかったりするので、気付き難いですが、大モノを掛けたという実績を掴んでしまえば、再会出来るチャンスが高まりますので、しっかり記憶に残しておく様にしています。
ところで、ブログの写真に写っていた、foxfireのベルトが便利そうだったので、先程ネットで注文しました。楽しみです。
sasuraiflyfisher さま、こんばんわ。
そうですね。大物は一番良い場所へ陣取るものと思います。
わかっている釣り人ものべつ叩くので、プレッシャーも高まると・・
良い思いをしたポイントを記憶しておき、別のフィールドでも類似するポイントを見逃さないようにすることも大事になるかと思っています。
フォックスファイヤのベルトは気に入っています。
ただ大袈裟になるので、熊スプレーを携行しなければならないようなフィールドで使うようになりました。
軽装なウェットウェーディング装備との相性も良いかなと思っています。
いやーロッド折らなくてよかったですねえ。僕も最近、歳のせいか川の中ではバランス崩しまくりですわ。
Aki 様こんばんわ。
ロッドも身体も何事もなく、ラッキーでした。
渓流釣りを出来るだけ長く楽しめるよう、普段から足腰の調子に気をかけていくしかないですね^^;