今度こそ”獲った!”と思ったんですよ。
フライ・フックのサイズ、フッキング、ラインシステム、立ち位置、気魄、集中力・・・完璧であったはずでありました。
この際体力と財力は考えないこととして、もし不安があるとすれば、これ以上に遡行のペースを上げると体重の増加及び運動不足が要因の早くも痛み始めた腰がイッテしまいそうな事。
OSSANの持っているランディングネットには”そいつの巨体は収まらない”ということだけでありました。
フライロッドを振りたい。
酷暑と家族サービスの夏をやり過ごし、更に長期間雨に振り込められた後であればその気持はさらに大きくなって居ります。
この平日休みを逃せば週間予報によりますと次の休日はまたもや雨のようでありますな。
体力あふれるその昔であれば「雨が降ってるくらいがよく釣れるんだ」と嘯いてもいられたのでありますが、最近は少々気後れがいたします・・・
晴れのち曇り所によって雨(オイ・・・)
今日しかないですな。
ただでさえ釣れない釣りをしてしまった後でもありまして、我慢も限界であります。
もう・・ただ単純にフライで釣りたい。
そのモチベーションだけに各部ガタガタ、よたよたのOSSANの身体と心が突き動かされます。
HPを拝見し昨年より気になっていた群馬県は藤岡市、赤久縄(あかぐな)さんへと出撃する事といたしましたな。
出発からカーナビがバージョンアップのため使用できないお陰で道を間違えたりしつつも夜勤の疲労が残る体に鞭をくれ、二時間あまりの運転であります。
しかし9時過ぎになってしまった釣行スタートのノッケから躓いてしまいました。
すこし前からピンがひん曲がり、バッグへの固定具合が怪しくなっていたC&F製ツインリトラクターとともに、ラインクリッパーとパワーフロートという重要なツールが見当たらないのでありますよ。
👇コイツですな。
(使い勝手は良いだけに、同じものを再度購入するか悩み中・・・もっとしっかりした素材、構造に改良してくれないかなぁ・・・)
どうやらどこかに落としてしまったようであります。
クリッパー(ラインカッターですな)が無ければフライチェンジ、ティペットチェンジのたびにラインを歯で噛み切るしか無く、同時にクリッパーに備えられているフライフックのアイを通すニードルもないということになります。(結局パッチに溜まっていくフライの針先で何とかしましたな)
そしてフライの浮力を回復させるフロータントが無いということは、本日を戦い抜く方法の選択肢として・・・
①ドライフライが沈み始めても気にせず使う。
(薄暗い木立の覆う山岳渓流のなか、視力の衰えたOSSANにはとても無理でしたな。インジケーター併用で試し、釣れはするんですがバランスが悪くてとてもストレスが溜まりました;;)
②沈んだらボックスの控え選手フライを次々に繰り出す。
(何もしないドライフライの浮いていられる時間はせいぜい数流し。クリッパーも無いと言うことは一々噛み切って毛羽立つラインをフライに結ばなくてはならないですな。ただでさえ面倒くさがり、貧乏性のOSSANには無理な相談であります。)
③もう最初っから浮くフライは使わない。(これぞ漢の選択肢)
こうなったら水面下フライ縛りで釣ってやるまでですな。
ですが結果として、これはアタリでありました。
#14E・H・カディス、ライトケイヒルを始めドライフライには反応も渋かった魚達が、#12のシルバー・サルタン、シルバーマーチブラウン、なんちゃってピーター・ロス等のルースニングに切り替えた途端笑ってしまうほどの連続ヒットとなりましたな。
釣り方は違えど、うらたんざわ渓流釣り場で体験した以来の反応の良さに「もしかしたらワシも少しは上達してきているのかも♡」などと根拠のない幸せに浸りながら初めて訪れる素晴らしい渓相にワクワク、息はゼーハーと釣り上がっていきます。
いくつめかの「ああ。ここは結構な数の魚をストックしているだろうなあ」と思えるポイントに差し掛かり、思った通りの展開でニジマス3尾と岩魚を5尾キャッチし、満ち足りた気持ちでの一服。
そろそろ上流へ移動しようかと考え始めた時でありました。
何気なくフライチェンジ。
お気に入りのソフトハックル・ウェットであります。
もう何尾もキャッチしてしまっているポイントであります。
2〜3度流してすぐに登り始めようと思っていたその時、メインストリーム深みの岩陰からそいつが姿を表しましたな。
うぉ、デカッ!?
OSSANは普段無口ですが、フィールドのさなかでは独り言が多いですな。
ゆっくりと、水底からおそらく10数センチ上を流れているであろうフライをじっくり観察しつつ水中の岩陰から追いかけて来たそいつは余裕で50㌢オーバーのレインボーです!!
赤久縄の水は素晴らしい透明度であります。
陽の光が差し込み、水中の見透かせるその流れの中で大口を開け、おおらかに身を翻したその様子がハイスピードカメラ映像のようにはっきりと見えましたな。
決まりました。
一呼吸の間をおくことで、切れやすい唇部分ではなくしっかりと口中にフッキングできたはずです。
そして想像通りの・・・
とんでもないパワー!!
序盤のスピードに乗った抵抗をいなすカムパネラ#3ロッドは美しくも限界ギリギリの曲線を描き、今朝取り替えたばかりの6Xリーダーは一切の妥協も感じさせず水面を切り裂きます。
思い出せ・・・! 過去二度の大物をのがした時、どんなミスをした!?
・・水中のストラクチャーは?
残念ながら有りますな。
それまで潜んでいた岩陰に逃げ込むでしょう。立ち位置を変え、ラインが岩にこすられない角度になるよう移動するんですな。
最悪、流れの強さと水深で少々危険ではありますが、真っ直ぐやつの下流側に移動し、腕ごとロッドを水中に突っ込んでラインを擦られないようにする覚悟を決めました。
プールの下流端は膝上の水深。なんとか渡渉可能。
今はいっぱいに腕をのばし、ロッドを高くかかげて慎重にやつの手の内を見極めますな。
・・ティペットの強度は?
13ftのリーダーはこの渓流で扱いにくく、切り詰めるに任せて短くなったままでティペットは継ぎ足しておりません。結び目は無いのであります。
6Xではありますがたっぷりと時間を掛け、無理をせず岩などに擦られなければこの狭いプールで問題とならない確信があります。
フライへの接続も焦り無く、丁寧に行ったばかりであります。
よし、これは・・・
勝つるっ!
捕れるぞなもし!
(一寸言葉がおかしいですがこのように浮かんできてしまったのだから仕方ないのですな)
絶対に獲ってやる!!
(そろそろ大きな魚の写真がほしい)
次々に繰り出してくるスピードとトルクに溢れる抵抗をいなし、必要ないとは考えつつも余分のラインを巻き取り、最後の仕上げとドラグ調整をかけ終わりましたな。
#12ウェット用フックが伸ばされるなんてこともないでありましょう。
あとはゆっくり、やつが疲れ果てて水面に横たわるのを待つだけでありますな。
無理をせず、しかし断固として休ませないラインテンションをかけ続けることが大事であります。
岩陰に定位し、休憩しているなと思えばラインテンションの角度を変え、そっと流芯に引き戻します。
幾度もそんなやり取りをこなし、頭はフル回転、腕はプルプル・・・しかしヤツも疲れ、浮上してくるサイクルが早くなってきましたな。
グワリ、グワリと身体が斜めに傾ぐようになってきました。
余裕のファイトで、あろうことか美しいベンディングカーブを描くロッドの写真を撮ってみようかなどと考えたほどでありましたな。
美しいです。
立派な体高の、尾びれもその先端まで欠損なくピンと尖った銀ピカの魚体。控えめなレッドバンドが艶やかです。その垣間見えるシャープな顔つきはオスでありましょうか・・・
もう少しですな・・・
あとちょっとであの素晴らしく美しい生命はOSSANのものとなるのであります。
勝敗は決したのであります。
そう思えました。
しかし戦いの終盤、あろうことかOSSANの心に迷いが生じてしまいましたな。
「そうか、ネットに収まらない。」
「完全に弱りきって寄せた所で頭からネットを被せて抱きかかえてしまえば・・・」
「いっその事両手で岸に投げ上げてしまうか・・・」
「ダメだダメだ!生きて返せなくなる!!」
「しかしもうあんなに弱らせてしまっている・・・今日も一尾もキープしないつもりで来たが、どうしてもの時は・・・」
「あの立派な頭をドヤしつけて、瞳の光が消えていくあの様を見なければならないのか・・・気が進まんな・・・」
そのような事を頭のなかで、映像のみで瞬時にシミュレートしておりました。
結局ランディング・ネットに頭から導入しロッドを脇に抱えてもう一方の手でやつの尾鰭の付け根をがっしり捕まえてしまう・・・という作戦で行くことといたしました。
寄ってきた水中でフックを外す方法もありますが、小さなサイズならいざしらず、このような滅多にお目にかかれない獲物は何としてもキャッチしたいのであります。
浅瀬にそっと横たわらせ、それ以上暴れさせず、素早く写真に収め、ゆっくりと介抱し、再びもと居た流れに自力で戻っていってもらう。
このディスタンスがあくまでもOSSANの理想であります。
仕方ないですな。
あの一尾の命運を手にし、もし生きて流れに返すことが叶わなければ遡行はここまでとし、駐車場まで戻って処理をし、後半の釣りは入渓点から下流へ向かうことと決めました。
疲れ果て、見事な魚体を斜めに傾ぎながらも浮上しがちとなったやつのまっすぐ下流へポジションを取りました。やつとの距離は約5メートル強。
油断と、ほんの少しの慢心があったのかもしれません。
頭をこちらへ向かせるためにロッドを寝かせ気味に操作し、思惑通りにこちらを振り向かせた時、やつがいきなり猛然とこちらへ向かって泳いできたではないですか!
ぅぅおおおおおっっ!!??
ネットへ伸ばしかけていた左手はラインのテンションを取り戻すには間に合わず、やつはOSSANの身体の右横をすり抜けて更に下流、4段になっている滝と言っても良い落ち込みへと突進していってしまいました!
ちょっちょっと!!・・・ マヂかよ!!!
どこまでも透き通る滔々とした流れの力を借りた、やつの背水の陣であろう抵抗にOSSANの足は水流にもつれ、身体の向きを変えるだけで精一杯でありました。
それでも必死に取り戻したラインテンションはやつが更に一段の落ち込みを降ろうとしている意志を伝えてきたのであります。
駄目です。
ここはその恐ろしげな落ち込みを直登できず、右岸の大岩を巻いてきたポイントです。
左は・・・絶壁であります・・・;;
ここまでなら上半身ずぶ濡れ覚悟で腕を伸ばせるが、これ以上は・・・・!!
そう悟ったOSSANも必死にその最期のパワーを受け止めました。
ダメだっ・・・折れる!!!
そう思った瞬間に、全ての緊張を失いました。
・・・ああぁ!・・・・・くそっ・・・!
ちくしょぅーーーっ!!!
いままで釣り上がってきて、先行者も後続者も見ていません。
どんなに素晴らしい自然の中にあってもここは”管理釣り場”であります。誰かに聞かれてしまうでしょうか?
でもOSSANは文字通り絶叫いたしましたな・・・!
もういいです。
誰に聞かれても構いません。
声に出さないと気持ちが壊れてしまいそうです。
くやしいいいぃぃぃぃイイイイっ!!!
更に数度叫ぶことにより、やっと落ち着くことができました・・・・・
またであります・・・
OSSANは三たび負けたのでありますな(号泣)
身体の其処ここに残るつい先ほどまでのファイトの余韻が遠ざかり、消えていくのを惜しみ見送りながら破綻したタックルの状況を調べました。
幸い、悶絶しつつも手に入れた愛するロッド、カムパネラは無事でありましたな。
では一番弱い所。
フライとの結び目ですな。
・・・??
!!!
何ということでありましょうか、破綻したのはフックの結び目ではありませんでしたな。
フライラインとリーダーを接続するリーダー・コネクター。
そのコネクターを残し、リーダーが丸々すっぽ抜けているではないですか!
抜けるか抜けないかを相当の力を入れて引張強度テストをしてリグっていたにも関わらずであります。
あるいはコネクターが破断したのかとも考えたのでありますがそういうわけでもないようです。壊れていません。
結び目がコネクターの穴を通り抜けてしまったのでしょうか?または結び目が切れてしまったのでありましょうか?いづれにしても相当な力が加わった結果ということは出来ます。
本当のところは今となってはもう判りません。
せっかく使い勝手もよく、信頼し始めておったというのに・・・
これ以降、コネクターにリーダーを通した後、更にクリンチ・ノットを掛け固定してしまうことといたしましたな。
しばらく休憩を挟んだ後、再び遡行を開始いたしましたが、リズムが狂ってしまったことはバラシの連発もあって明らかでありました。
「もうここから先は人の入っていける様子ではないなあ・・・」という背丈以上の巨岩が折り重なる場所を最期に引き返す事といたしましたな。
苦い教訓もありますのでね、未練はありますが本当にモノスゴイ景色であります。無理は禁物でありますからね・・・
釣り下る最中、あるいはヤツが力尽き淵などに浮かんではいないかと確認しながら戻ったのでありますが、発見することはありませんでしたな。
溺れさえしなければ#12バーブレスフックということもあり針は自然と外れると信じております。
わかりましたな。
今回は、OSSANの負けであります。
近いうちに再び相まみえようぞ!
その後、昼飯も食わず(またかい!)入渓点より下流も釣りましたがこちらも素晴らしい反応の良さ。
虹、山女魚、岩魚と全てがコンスタントに釣れ続き、様々な釣りを試すことができましたな。
悔しさも残りますが、沢山の引き出しを作ってもらい、充実した時間を堪能することが出来ました。
残念ながら当日は早めに切り上げ娘の夕食を準備せねばならず、車へもどって遅すぎる昼食を急いで啜り込み帰路についたのでありました。
本当はハコスチと呼ばれる(養殖環境下でヒレの欠損が起きにくいとされる箱島系という虹鱒と、パワー命のスチールヘッドを交配した群馬県の商標登録済み遊漁用トラウトとのこと。しかしこのネーミングは何とかならなかったんでしょうか・・・)70㌢オーバーの大物を狙えるというポンド、レイクエリアも様子を見たかったのでありますが、残念無念。
次回のお楽しみにとっておくことといたします。
しかし以前から薄々そうかも知れないと思っていたのでありますが、今回で確信に変わったことがありますな。
当然大物を釣りたいのでありますが、やはりどうもOSSANは流れの中の大物が釣りたいようであります。
きっと次回も渓流エリアの大物に挑むと思いますな。
ここ赤久縄さん。
いままで経験してきた管釣りの何処よりも自然の密度が濃いですな。
爽快な高原や明るい渓流のイメージではないです。
言ってみればもっとウェットな日本の源自然・・・? 森が深く、こちらの様子を伺っている気配であります。
油断すると襲い掛かってきそうな雰囲気と申しましょうか・・・畏怖を感じてしまいますな。
おどろおどろしいと言うと聞こえが悪いですが、ジブリの”もののけ姫”で描かれた森をもっと邪悪にしたような、西欧昔話にある人食い森のようなイメージでありましょうか。
天気や季節が変わればそのイメージもコロッと変わりそうではありますがね。
う〜む・・群馬県、なかなか侮れないですな!ものすご〜く気に入ってしまいました。
またすぐにでも伺うことといたします!!(希望)
<補足ですな>
初めて赤久縄へ出かけてみようという方へ。
- 渓流エリア入渓点より上流へ行こうと考える方はウェーディング装備必須。なかなかに厳しい遡行となりますよ、お覚悟あれ。くれぐれも無理は禁物でありますな。
- 下流は造成されており変化には乏しいですが、長靴程度で十分釣りになりますな(スニーカーはやめたほうが良いと思います・・・)。大物も数尾確認。
- 釣場までの県道46,177号共に相当な山道。特に46号はほとんど一車線。すれ違い不能区間も多々あり、見通し最悪。細心の注意が必要であります。大型車通行不能。
- さすがに走り屋もいませんが、OSSANは暗いうちにここを運転するのはいろいろな意味で御免被りたいですな。何が起きるか判りません。
- AUの携帯電波はつかめませんでしたな。@駐車場
- 気配は感じませんでしたが、常連さんらしき方は熊鈴携行。・・・出てもおかしくないですな。スズメバチ撃退スプレーを持参しましたが、今回は出番なし。
- 地衣類やコケの類等素晴らしい植生が残されております。遡行される方はどうか是非それらにも気をかけていただきたいと切に願いますな。
- やはり秘境であります。お蕎麦以外、飲食料は用意されていった方が宜しいですな。
コメント
こんにちは。拙ブログへのコメントありがとうございました。
赤久縄の大物、あと一息おしかったですね。
私もそうでしたが、ティペットを5Xにしておけばなんとかなったかもしれません。いっそ4Xにして大物オンリーでねらうのもいいかもしれませんね。
渓流ゾーン最上流の巨岩地帯を抜けると通ラズらしきところがありますが、平水なら身長168cmの私でも渡渉できます。増水の場合は左岸を巻いて抜ければすぐに餌釣りエリアです。そこから赤久縄のそば屋にあがってそばをいただくのがおすすめですが、そのまま県道を下ってポンドエリアで釣り再開の場合でも川通しに下るよりらくですよ。
windknotさま、ご訪問有難うございます!
お使いのカメラ、オリンパスのTGなのですね。丁寧に撮影されているご様子。
OSSANも精進いたします;;
そうですね、「あのフィールドで5Xは太すぎないか」と思うのですが、あのサイズを捕るためには必要な気がしております。
来週の平日リベンジを狙っておりますがはてさて・・・
あの巨岩帯を抜けられるんですか。
ううむ・・・県道まで出られるならば楽ですね。
増水が無ければ次回挑戦してみます!
今後共宜しくお願い申し上げます。