昨年のフィッシング&キャンプを行って以来、すっかり木曽方面が気に入ってしまっているワタクシであります。
その釣行記を読んで頂いた方からお招きいただき、再々度の木曽遠征に出かけて参りましたな。
「あれ・・回数が合わないじゃん?」と思われた方はスルドイですな。実は昨年9月の末にも一度、出かけておったのであります。
その時は(も)たいして釣れなかった事と、直後に仕事が立て込んだりしてブログUPを見送っていたのでした。
しかしまぁ、そのくらい気に入ってしまっていたわけなのでありますな。
あまりの貧果を憐れと思われお声がけ頂いたMさん。
なんと木曽に別荘(!)をお持ちだというのでありました。
「あハイ、行きます行きますとも!」
即答したのは言うまでもありませんw
昨年からコンタクトをいただき、Ossanレベルでもまぁ何とかなるのでは・・・というエリアの案内を買ってくださるというのですから、やはり奇特な方なのでありますな。
悪天候やら、予期していなかった高速道の集中工事やらで紆余曲折あり・・・
結局、前日の夕方待ち合わせ~翌朝からお昼過ぎ頃まで釣り〜そのまま帰京というスケジュールとなりました。
5時間弱を走り続けた中央道を降りる頃、厚かった雲の切れ間から陽が差してきました。
それを機にエアコンを切って窓を開け、約7ヶ月ぶりの木曽路に昨年の記憶を重ねてみます。すると、ひそかに楽しみにしていた森の匂いが薄いことに気づきましたな。
遠く見る山々の装いは未だ若々しく、熟していないようにも見えます。少々季節が早かったのでありましょうか?
シーズンも終わりかけだった昨年2度目に訪れた時にも、同様の印象を持ったことを覚えておりました。
あの濃密な木々の香りに満ちた大気感を楽しめるのは、もしかするとそれほど長い期間ではないのかもしれませんな。
とは言え、春雨に洗われた新緑が柔らかに光る情景も、それはそれで良いものでありました。
お招きいただいた別荘はフライフィッシング趣味で埋め尽くされた、まさに「男のヒミツ基地」というものでありましたな。
壁面を飾る各地での釣果写真や剥製、一線を退いたロッドやリールたち、海外のレトロな壁飾りの数々・・・
Mさんはここを拠点に周囲の水系を網羅し尽くし、それでも飽き足らず全国各地へ遠征にも出かけるという方であります。
夕方早くから23時過ぎまで、出がけに買い込んできた総菜をツマミに飲み続け語り続けましたな。
自身の記憶がどんどん曖昧になりつつあることに愕然としつつも、様々な角度からフライフィッシングに対する「愛」をぶつけ合いましたw
もっとたくさんのフィールドへ出かけ、人様に開陳できるような釣果やエピソードも得て、このような空間を自身で作り上げてみたいものであります。
趣味のある男子にとって、それは夢なのでありますナ。まぁ私には、娘が巣立った後のマンションの一室が関の山というところではありましょうが・・・
寂しくなってきたのでチョット話を変えましょうw
皆さんイワナという渓魚について、どのような想いを持っておられますかな?
Ossanはフライフィッシングを始めるまで、岩魚と言えば「塩焼きと骨酒がウマイ!」というくらいの認識しかありませんでした。
それが方々へ出張ってイワナを釣るたびに、その個性豊かな表情や体表に表れる模様、色彩の奥行きの素晴らしさ等に惹かれるようになっております。
近頃この渓魚の魅力には、一寸ばかり常軌を逸するモノを感じるまでになっておるところでありますな。
その辺を、ワタクシなりの表現を試みるならば「意味の分からない可愛さと得体のしれない不気味さが同居する渓魚である」となるでしょうか。
日々のインドア・フィッシングとして様々な書籍に慰められておりますが、特にイワナと言う渓魚の生態そのものの不思議に触れているものは大好物であります。
生物・分類学的なアプローチであれば、生息域順にざっくり北の方から挙げると、エゾイワナ、ニッコウイワナ、ヤマトイワナ、ゴギと4亜種であるとされておるようです。
関東近県から以北へと出かけることの多いOssanとしては、ニッコウ系やエゾイワナ系にお目にかかることがほとんどであります。
ここで「系」と記すことにもワケがありまして、ご興味があれば彼らの暮らす世界の奥行きや哀しみに触れてみるのもまた、「苦労人の遊び」に奥行きを与えてくれるかもしれませんな。
ワタクシとしては、本当に雨の林道を伝って別の渓へ移動するなんてことがあるのか、獲物として腰に下げたりしていると狐狸ムジナの類に化かされて、取り上げられたりしてしまうのだろうか・・・などの方に、大いなる興味をそそられておるのでありますがw
壁に飾られた数々の写真やトロフィーを拝見するに、恐らくMさんも言葉に表し難い、そんなイワナの魅力に取り憑かれてしまった一人なのであると見えましたな。
木曽アマゴであるところの「タナビラ」狙いで2度この地を訪れましたが、今回はこの地に生息する「ヤマトイワナ」に出会ってみたい・・というのも主な目的なのでありました。
本来なら釣りに割り当てるはずだった日程を、天候のせいとは言え移動のみに費やさざるを得なかったわけですが、おかげで疲労感を回復させることができました。
相当にアルコールを摂取していたにもかかわらず、非常にスッキリとした目覚めとなりましたな。
何処もかしこもが朝日に輝く高原のドライブは、初夏直前にあっても「ビシッ」と引き締まったままの大気で満ちており、爽快以外の言葉を思いつきません。
小一時間の移動を経て、安定した水量を示す苔類に覆われた岩と、倒木の織り重なる源流の雰囲気が濃厚な渓へ浸透いたしました。
気温の低さに多少の迷いを抱きつつ、ウェットウェーディング装備に身を固めます。
近頃はストレス太りが著しく、かつ運動不足でもあり、落差のある渓流を遡行するのにチェストハイ・ウェーダー+ゴツいSIMMSブーツの重量では体力的に不安だったのであります;;
盛期の渓流遡行用として新たに、軽量なモンベルのサワークライマーというシューズを用意。ぶっつけ本番で投入することにいたしましたな。(これについては後日詳細を書くつもりデス)
本格的な山岳渓流の様相に見えますが、Mさん曰く「ここならまだ里川の範疇だよ〜」との言。
ワタクシより年上というのに、普段どんなキビシイところに行ってるんですか・・・
6ピースのロッドを念入りに継ぎながら、周囲の気配を伺います。ドライフライでは時間的にもまだ早い気がして、フローティングピューパでスタートしましたな。
今期3箇所目となる「初フィールド」を前に、否が応にも鼻息が荒くなります。
「さぁ、チャチャっと数尾釣っちゃってくださいw」とプレッシャーを受け、ギクシャクとしたキャストを始めますが、そんな展開にならないのはMさんも重々お分かりではないですか・・・
雨による増水や濁りを心配しておりましたが、全くの杞憂でありました。周囲の森や土がしっかりと機能し、コントロールされているのでありましょう。
流れに手や足を浸してみると身がすくむような冷たさでありますが、まぁ我慢できるレベルです。おそらく5〜8度の間であったでしょう。
少しでも装備を軽くしたいので、盛期には水温計も持ち歩かないことにしたのですな。
渓の其処ここへ陽光が差し込み始めると、岩に付着した苔類からは盛んに水蒸気が立ち上り始めました。
「あの水蒸気の塊一つ一つが空高く昇っていき、山間に揺蕩っていた雲となるのだな。ワシは今、その雲の揺り籠の中でフライフィッシングをしておるわけなのだなぁ・・・」
Ossanにしては珍しく、わりと具体的な思考を巡らせておりましたな。
クロタニかチラであったでしょうか。少しだけ大ぶりなカゲロウ達の姿が目に留まるようになり、ライズも無いのに期待と血圧のボルテージはレッドゾーンに差し掛かっておりました。
昨晩、降圧剤の飲み忘れはしませんでしたが、そろそろ釣れてくれないと万一の事態に見舞われないとも限りませんぞ・・・
反応を得られないまま随分と時間が過ぎておりました。
まだか、これでもかと拙いメンディングを繰り返し、流心を跨いだ5m先の対岸の弛みをトレースすることに腐心していると、唐突に水面が弾けましたな!
「・・っしゃ!来たアぁあぁ〜ぁっ?」
やっちまいました・・・
使っているフライに迷いが出始めたタイミングで出たので、ビックリアワセとなって合わせ切れしてしまいましたな;;
しかし、いつもであればお決まりの苦しい展開を予想するところですが、この日は違っておりました。
これまでに五感で感じてきたもの達がバタフライエフェクトを起こし、自身の内部で錆を散らしながらギシギシと回転し始めるのを感じました。
このバラシによって、あやふやな要素がアヤフヤなままにガッチリと噛み合ったように感じ、その後の迷いが無くなりましたな。
フローティングピューパから、ライトジンジャー色の#16ソラックスダンへ結び変えます。
相当以前からボックスの中で出番を待つのみだったこのフライが登用されたその理由は、やっぱり単なる第六感なのでありますが・・・
行手を阻むように聳えている大岩。その抉れた足元には巻いた流れが小さな泡を抱き、本筋の波動を拾っています。
一見すれば教科書通りに見えるそんなポイントの脇の流れに、良い具合の日射と水深があること。
できれば本筋の水中にも岩が断続的に沈んでいる場所であることが、この日のミソであるように考えておりました。
岩の際ギリギリの水泡の中へ、今期使われないままだったら分解されていたかもしれない不出来なフライを結びます。
昨晩交わしていた会話の影響で短くしていたティペットは、投射コントロールが効きトラブルも少なく済みます。
しかしドラッグの発生を遅らせるにはやはり不利でもあり、メンディングの力加減の調整も難しくなります。
こうして頭で理解していることも一つ一つ、経験として自身の中に取り込んで、自分なりのスタイルを組み立てていきたいと考えておるのですな。
あまり時間は残っておりませんが、マァこのくらいゆっくりでも良いでしょう。
ただでさえ面倒なことの多いフライフィッシングを、余計に面倒くさくするのも面白いのですなw
陰鬱であった水面が、不意に鮮やかなオレンジ色で満たされます。
気配の感じられなかった水底から小さな魚影が急浮上し、数年前の我が妄執を引ったくって丸呑みすると同時に飛沫を上げて半転し、居心地の良い隠れ家へ駆け込もうとします。
そうはさせじと利き手を立てると、細身なロッドは俊敏でしなやかなベンドを描き、渓魚の突進を楽しい視覚へと変換してくれます。
小気味よい手応えは、獲物が大きくないことを早々に伝えておりましたな。
「きましたね〜!」
「・・やっとです・・綺麗です・・帰りたくありません・・・」
「いや、あの・・・;」
ガイドがありサイズも小さいとは言え、初フィールドでの初釣果。出会いたかったヤマトイワナなのでありますな。
普段から極めて口数の少ないワタクシの言語中枢は、その感動によっていとも簡単にプッツン(死語)し、支離滅裂な言葉を断片的に呟くことしかできなくなるのでした。
その後も似たようなポイントで反応が続いたものの、魚が小さいのか未だ水面の餌を獲ることに慣れていないのか、フッキングまで至ることは稀でありましたな。
それでもトータルで3尾のヤマトイワナを手にすることができました。
彼らの体表の滑りは比較的厚めであるように見え、腹部を広く彩るオレンジ色は日光のもとで金色に近く映ります。
釣果が少なすぎますので何ともですが、やはりニッコウ系、エゾ系とも異なる雰囲気を確認することが出来ましたな。
初めて見る流れ、初めて訪れる渓でソコソコの反応があり、夢中になって遡ってしまいます。
終いにはMさんの釣りを拝見させていただくことも忘れ果て、力の限り遡行してしまっておりましたな。惜しいことをしたものであります。
時が経つにつれ、魚達の反応は良くなってきておりました。水温も上がってイワナ達も身体が動かしやすくなってきたのでしょう。
このまま午後遅くまで釣りができれば、もしかすると大物に出会うチャンスもあるかもしれない・・・との予感がありました。
しかしOssanの持ち時間と体力は、13時を大きく過ぎることは出来なかったのでありますな。
嫌な痛みの出始めた腰を誤魔化し渓から這い上がると、初夏の空はすっかり晴れておりました。
道すがらMさんと数種の山菜を数えつつ、白樺林の眩しい県道を引き返しましたな。
3度目の木曽遠征は、出会いと天気とに恵まれ幸せな釣行でありました。
こんな日の帰るべき場所がフィールドの近くであり、かつその場所が自身で積み上げたフライフィッシング趣味で満たされた部屋であったなら・・・!
帰路での5時間弱を睡魔と戦いつつ、そんな考えに囚われて続けてしまった3度目の木曽遠征でありました。